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下町の顔
FACE

第11回
『舞台美術の空間を追い続けて』

<プロフィール>
多摩美術大学 グラフィックデザイン科卒。 (株)劇団四季にて美術助手として働く。その後一年間渡英。 2002年、読売演劇大賞最優秀スタッフ賞受賞、紀伊国屋演劇賞個人賞受賞、第30回伊藤熹朔賞受賞。一女の母。江東区在住。
(有)センターラインアソシエイツ
代表取締役

 松井 るみさん

読売演劇大賞受賞の新聞記事を片手に、「tick,tick,BooM!」という舞台の準備が進められている天王洲アイルの劇場、アートスフィアを訪ねました。普段余り見る機会のない劇場の楽屋の細い通路を、大道具さんたちが通るのに身をよけながら、松井さんに誘導されて、隅っこに落ち着いてインタビューが始まりました。


天王洲アイルの劇場、アートスフィア
1.皮膜の繊細さを
★ちょっと遅ればせですが、読売演劇大賞最優秀スタッフ賞おめでとうございます。
ありがとうございます。照れますねぇ。

★舞台美術で受賞されたんですよね。どのような仕事ですか?
舞台は演出家・出演者・スタッフで成り立っています。スタッフも空間を考える人、美術、照明、音、衣装とそれぞれに考える人がいますが、私は美術の部分なんです。昔だったらたとえば森の絵だけで済んだところも、今は、空間をどう考えるかという方がメインになりつつありますからね。

★ユーゴスラビア・ノヴィサド国際芸術祭特別賞、伊藤喜朔賞新人賞、紀伊国屋演劇賞とかいろいろ受賞されてますが、その中でも読売演劇大賞は権威のある賞なんですか?
読売演劇大賞は10年目、紀伊国屋演劇賞はもう37年と長いですね。紀伊国屋演劇賞のほうが老舗感があるんですけど、今回、大きく取り上げられたのは新聞社が出しているということで、メディアに載る量が違いますよね。そういう意味ですごいなぁと思いました。

★受賞されたときは嬉しかったですか?
すっごく嬉しかったと言うべきですかね。ちょっと嬉しかったですね。ばんざいって事はなかったですけどね。

★受賞対象になった『ピッチフォークディズニー』はどんな劇ですか?
設定はロンドンのイーストエンドで、双子が、とある一つしかない部屋に取り残されて、ずっと住んでいて、そこに信じられないような美少年がその二人の世界を壊すかのように入ってくる。そういうかんじですね。

★どんな過程で舞台美術が仕上がって行ったんですか?
演出家が卵の殻の中のようにしたい、と言って。模型を作って。初日の一月以上前にはその形ができていた。卵の中の皮膜であらわしたい、その破けそうな壊れそう感じがなかなか出なかった。何か違う、何か違うよねっ、て。最後にこれだって思うまでがしんどかったですね。和紙を見つけて、いったん作った壁の上に、さらにラテックスの膜を、一晩かけて全部覆うように貼っていったんですね。

★細かいところが大賞を取れたところですか?
さあ分からないですけど、劇場に入ったときの第一印象はすごかったようですよ。観客席からオオー!という声が上がっていたんで。かといってそれがグランドオペラのようにすごいセットではなくて、周り真っ黒で、部屋がひとつこれだけですからね。

★題材が閉鎖的というか、暗いものですね?
暗いことが大好きなんで、もっと暗くしてみようかな、もっと暗くしてやれぇって思いますね(笑)。

舞台は卵の殻
★暗い世界ですか。いいですね。演劇に入ろうと思ったきっかけとか作品とかはあるんですか?
基本的には昔から好きだったんだなぁ。当時アングラとかやっていましたね。唐十郎さんが活躍されていたり、寺山さんがまだ生きていたギリギリの時代。テント芝居とかよく観にいきませんでしたか……行きませんよね(笑)。日生や帝劇はチケット代が高かったけどいわゆる小劇場は、アルバイトしては観にいきアルバイトしては観にいきしてましたね。
印象深い作品……と言っても、積み重ねだからなぁ。当時といったら佐藤信さんの『夜と夜の夜』とか感銘を受けましたね。あと、金森馨さんの舞台写真集があって、大学3年生の時パルコで見つけて、わあ、すごい、こんなすごいものがあるんだと思って、ちゃんと自分もやりたいなぁと。それがまあ具体的なきっかけと言えば言えますかね。

★舞台の美術はいくつぐらいの時からですか?
舞台美術ですか。それでしたら小学校の二年生くらいから寸劇で象さんとか描いていましたからね(笑)。

★そのくらいからやるとは、本当に好きなんですね?
かしまし娘の真似とかもやっていましたからね。ホント。ギターの形に紙を切って毛糸を三本つけて。学芸会なんか大好き大好き。シンデレラの赤い階段とかね。当時は自分でものすごく良くできたと思っていたんだけど、このあいだ小学校のアルバムを見ていて笑いましたね。"これはいかん"っと。"封印だぁ!"って(笑)。

★図工が好きだったんですね?
そうですね。造形的に優秀かというとそうではなかったようですね。むしろストーリー性のあるものに絵をつけていく、そちらですね。

★それがあって今がある。賞が取れたと?
まあ賞は別ですが、好きだから続けてこられたんですね。続けること自体大変です。今でも、若い人から興味があるからやってみたいとよく言われますけど、舞台はお金にならないですよね。経済的に見返りなし。そんなもの期待した日にはすぐ終わってしまう。労働条件もいいわけでもないし。で、最後に残るのは本当に好きだからということ。で口でいうのもちょっと恥ずかしいような"好きだからやっているのよ"(リキ入れて言う)ってね。(笑)いいながら照れちゃうような、ね。

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