江東活學大學

第11回

<プロフィール>
1936年江東区生まれ。「アプローズこうとう」「希望クラブ」「夢の島エコネット」「下町クラブ」「江東区ふとんリサイクル推進協議会」等に所属する。
『リサイクルが似合う、
おしゃれな町こうとう』
親松 徳二さん

講演

今日は貴重な皆さんの時間をいただきましてありがとうございます。
町の中がどんどん変わっていくことに対していたたまれない気持ちを持っています。
このままではいけない、どのようにしたら町のつながりがもっと豊かに通い合えるのだろうか、と自分なりにいろんなことをしてきました。
私のやってきたことを少し紹介させていただきます。
平成3年、「夢コレクション」というミニコミ新聞を出しました。この新聞は町の中でいろいろな夢を持って活動している人たちの思いをお伝えしようと作りました。約10000部を自費で作りまして、季刊程度でしたが何号か続けました。その後お金が続かなくなりまして、所属している商店会発行にして、名前も「ストリート・ヒーローズ」と変えて発行を続けました。
町のマップとか、昔の町の様子を集めた冊子なども作りました。また、コンサートイベントなども行いました。それもこれも、町のことをもっと知って欲しい、町のつながりを守りたいという一心でした。
今、町がものすごい勢いで壊れています。その原因はグローバル化という大きな流れの中にあるからだと思います。従来町の中でうまく循環していて、うまくバランスが取れていたものがありますね。小さな工場が町の人を雇うとか、商店同士で買い物しあうとか、地域で経済が回っていたものですが、グローバル化ということでどんどんそのつながりが消えております。時代の流れで仕方がないかと思いますが、現実には世相がすさんで凶悪な犯罪が増えております。また毎日のように自殺者がいます。よくないことばかりです。そういうことで今日は私の考えをお話させていただきたいと思います。

●今、町は●
イギリスの方と国際結婚をして向こうで15年間暮らして帰ってきた女性が驚いていました。「日本人は冷たくなった。町がすさんだ、子どもを連れて町を歩くのが怖い」
イギリスでは小さな子供たちに対して非常に温かい視線で街の人が接してくれるそうです。日本では自転車が歩道をビュンビュン走っていて、安心して歩けないと言っていました。
町会の行事でもお手伝いすることは苦痛でもなんでもありませんでした。テントを張って段取りをつけて。それが当たり前のことでした。お葬式も今は業者任せが多くなりましたが、町会よりもそういうところにお金を払って頼んだ方が面倒がなくていいという意見も多くなっています。町内のお付き合いがわずらわしいと言う人も増えています。それでいいのかなぁと思います。
地域の中に共通の意識がなくなっていますので、コミュニケーションが取りにくく、その結果、その地域固有の習慣とか文化がどんどん崩れていることを感じています。これがグローバル化ということではないでしょうか。
大型店が元旦から商売をする。つまりお屠蘇と雑煮で祝う家族のお正月らしい風景まで消えていくのです。営業時間も夜の12時までが多くなっていますが、これもどうなんでしょうか。お店の立場からすれば世界中を相手にした競争の中にいるのですから、ちょっと止まるとどんどん遅れていってしまいますから、致し方ないかも知れませんが、これがグローバルな競争社会の実態でございます。グローバルのマラソンはゴールがない競争です。相手が倒れるまで終わりません。リストラも盛んですが、これは人の使い捨てです。この競争は人が倒れ、町が崩壊するまで終わらないのです。
その結果どうなったかというと大量生産と大量消費で同じものに画一化され、それが使い捨てられていきます。町はゴミの山になりました。ゴミが増えることと文化が崩壊することはイコールと考えられます。
しかしながらここに来て、やっと世の中が変わってきました。大量生産、大量消費の限界が見えて来まして、もう地球が持たなくなってきたんです。環境問題が起きて、大きな反省としてリサイクルという、ものを大事にする時代だよという風に変わってまいりました。スローライフという流れも出てきています。私はこれから新しい地域文化が始まるのだろうと思っています。
今、町の中には二つの種類の人がいるのではないでしょうか。一つには、「会社員型」、組織に依存する縦社会型の方々です。もう一つは、「職人、商人」という町で横につながりながら生きている横社会型の人たちです。
問題なのはその縦社会で生きている人たちが地域とか町を単なる寝場所としてしか考えていないことです。経済はその人たちが握っていますので、それもまた町が崩壊していく原因の一つになっています。
地域社会は人とのかかわりをなくしてはありえません。一人では生きていけません。相互に補完しあって助け合って生きているところが町です。縦の競争社会はいずれ崩壊していくのですから、私たちは受け入れ場所としても、地域社会を守っていかなければならないと思います。
大量生産、大量消費社会というのは、無個性で無地域で無文化の社会ですね。反対に、ものを大切にし、リサイクルする社会は個性的、文化的な社会です。大量生産型が行き詰まったのですから、これからはリサイクルが地域を再生する力になるのではないかと改めて思います。
江戸時代の下町を見てみますと、ゴミを出さないことからいろいろな仕事が生まれました。江戸深川の見事な循環型社会の情景は最近改めて見直されていますが、江戸の人たちは物を捨てないだけにあらず、物が生まれ変わることに価値観を見つけていました。物を大切にすることはそれを作った人の心を大事にすることだと考えていました。そこから生まれたのが、「世間様」「お蔭様」「お互い様」という言葉でした。「下町の人情」とはこの思いが通い合うさまを言うのではないしょうか。
江戸の頃の深川文化の特色として、「粋」と「張り」と「仇」というのがありました。とりわけ「粋」はすべての町人の憧れでした。みんな粋に生きようとして頑張ったわけです。(吉原健一郎「深川の歴史と文化」)
粋とは相手の気持ちを大切にする振舞い方という風に考えられます。相手に対する「気遣い」が一番大切で美しいものとされたのです。
「粋」に対して「気障」と「野暮」という言葉があります。人々は最高の生き方である粋を目指すのですが、目指せば目指すほどキザになってしまう。自分が粋だと思っている人をキザと言いますよね。しかしながらキザというのは一所懸命キザを通していると粋に通じるのではないかと私は思います。
ところがもう一つ野暮というがありまして、これは粋がわからない人、つまり価値判断できない人です。こういう人はお金に換算してやると納得してくれます。これが野暮です。
野暮の下にもう一つ「下衆」というのもありました。
このようの価値判断で自分の誇りを、粋に生きることに江戸時代のこの町の人たちは求めていたのです。
この江戸下町の気質は現代の江東区民に脈々と続いていると思います。さっきの「粋」と「張り」と「仇」で考えてみますと、自立してしっかりした人は粋なんですが、それが私たちはどうしても突っ張りの方にいってしまいます。アダも格好をつけることになってしまうのですが、本当に粋きですばらしい人に時々会います。
もう一つ「人情」があります。これは人に対する思いやりの心で、いい意味の「お節介」です。このお節介が下町の文化の根源だと思うのですが、現在は下手にお節介するとプライバシーの侵害になってしまいます。これは悲しいことですが、プライバシーを侵害しないお節介のしかたとして私は「地域通貨」に興味を持っています。
江東区は江戸の頃からのゴミが堆積されて生まれた町です。ゴミは長年のうちに熟成してすばらしい土壌となり、「活き返らせる」文化を生みました。リサイクルすることです。新しいリサイクル社会が始まった今、すなわち過去と未来がつながったのですね。江東区の新しい文化、ものを大切に活かす伝統が蘇えったという風に私は思います。

●粋⇒相手の気持ちを大切にすること●

文化がなければ町の未来はありません。町の文化は守ったり作っていくことが必要だと思います。「アプローズこうとう」という文化イベントの会をやっているのですが、町のイメージとして、4つのキャッチフレーズを掲げました。
1、今ここに住んでいて死ぬまでここに住みたいと思う町。2、自分だけでなく、子どもたちにも住まわせたいと思う町。3、親しい友人に町の自慢を語れる町。4、よその町にない、人間味のあふれる人たちが住む町。
このキャチフレーズは効きました。こんな町でありたいという思いはみんな持っているものです。アプローズこうとうのコンサートイベントはクラシックやジャズですがいつも満席でした。多くの町の皆さんがこの町の文化運動にお金を出して協賛し、参加してくださいました。私はこのイベントでも町を愛し、文化の花を咲かせようと願う多くの人たちと出会い、いっそうこの町を誇りに思うようになりました。
昔の粋を今風に変えると「おしゃれ」ということでしょうか。おしゃれな振る舞いは相手が美しいと感じることです。おしゃれな人は缶ジュースを飲み終えても決してぽいとは捨てません。つまり「おしゃれ」が現代の共通の価値観ではないでしょうか。江戸の粋と対比して考えてみますと、粋⇒おしゃれ=美。気障⇒派手。野暮⇒無知。下衆⇒勝手、ということになります。
おしゃれって結局、相手の気持ちを大切にすることではないでしょうか。そういう人は心豊かで、夢をいっぱい持っている人です。おしゃれな人は夢を持っています。夢は未来への思いです。大勢の人の思いから生まれるものが文化です。町の人の夢の集合体が文化です。だから江東循環型社会に住む人たちはみんなおしゃれな人なのです。ここは夢の島なのです。ドリームアイランド江東なのです。絢爛たる江戸文化の最終処分場から生まれたこの町から、いま熟成された新しい共生型文化が芽生えはじめていることを感じています。
質問コーナー

Q、縦社会から横社会に移ってきた人間ですが、移ってきた者には非常に難しい問題で、この活学大学などは、横のつながりをつける場になって欲しいです。今日の感想です。
A、ありがとうございます。本当は地域のいろいろなことは私のような老人が伝えなければいけないのですね。現状は余りにも伝えていいないです。頑張らなければと思いますね。
ただ、伝えにくい時代でもありますね。マスコミ等の情報が氾濫してそれが何にも優先する。先ほどのグローバル化の話と一緒で、伝えてもらっては困るものばかり伝わってきます。

Q、粋はいい、ハリもアダもいいと言うのですが、このような会に出てくる人はいいのですが出てこない人が自分はどの立場にいるか分かっていないのではないでしょうか。それをするためにスタッフを育成するようなところにまでいくことが次の段階かなと思うのですが?
A、人間というのは理論じゃ動かない。感情で動く。中州にテントを張って雨が降ってきて忠告されましたね。危ないですよと。理性でははっきり分かる。しかしあの人たちは動かなかった。今地球の未来がないのに生活を変えようとしない、それと同じなんですよ。つまり人間は感情で動く。川の水が押し寄せてくる。これは恐怖感ですから、いやおうなく逃げます。恐怖感、危機感、絶望感という感、その感に訴えなければ伝わらない、だからモット脅しをしなければいけない(笑)。差別をして分別をする。あなたは町を守る人か、壊す人かどちらかと、一人一人に問いかけていって気づかせる。「感」を呼び覚まさないといけない。

Q、そうですか、う〜ん、北風より太陽じゃないですかぁ……。
Q、僕もそう思いますよ。恐怖心じゃなくて楽しいこと、気分がいいこととかそういう方向性で持っていかないとまずいんじゃないですか。お祭りだって肩が痛くなるといえば来ないけど、楽しいといえば来るでしょ。地域の中を変えていく力を人は持っていると思いますね。
A、みなさんがそうした温かいつながりで江東区は素晴らしいんだよ、と「共感」し合えればいいですね。

Q、だからこそ人肌が大切なんですよ。親が出なければ地域のオッちゃんでもいいですよ。子供は変わっていく。よそ者をいかに受け入れてあげるか、子供にはそれをやっていかなければいけない。今の世代には駄目でも次世代には希望が持てるかなと思える。
皆さんがいろいろな活動をしている。そのことをコマーシャルする場も非常に大切ということになると思います。
A、そうですね。皆さん一人一人の大事な江東区であって欲しいですね。今日は本当に沢山のお話しができてよかったです。ありがとうございました。

(2003年7月10日収録)文責:室井朝子