江東活學大學

第12回

<プロフィール>
財団法人「がんの子供を守る会」ソーシャルワーカー。大学卒業後14年間小学校の教員をする。夫の転勤でドイツにて4年間を過ごす。社会事業大学に編入する。平成6年よりソーシャルワーカーとして働く。
『がんの子どもたちを守って』
近藤 博子さん

講演

財団法人「がんの子供を守る会」で相談を担当しております、ソーシャルワーカーの近藤です。当会には、小児がんの子どもたちの会があるのですが、今日は元気なった小児がんの子ども達についてお話させていただきます。
今日、メールが入りまして、「本当に何も知らないので教えてください」といわれまして、「小児がんの子供は学校に行かれるのですか?スポーツはできるのですか?」と聞かれました。「学校もスポーツもOKです」と答えたのですが、このように思っていらっしゃる方が多いのではないかと思います。

●小児がんについて●
大人のがんと子どものがんは少し違います。子どもには、胃がんとか肺がんとかは極めてまれで、白血病、脳腫瘍、神経芽腫、網膜芽細胞腫などで、発症数は全国登録によると、全体の白血病が一番多く、悪性リンパ腫、脳腫瘍と続いています。
会が発足した35年前には小児がんの子どもはほとんど亡くなっていたので、子どもの死亡の第一位は小児がんだったのですが、今はどうかといいますと、子どもの死亡は不慮の事故死が一番多いですが、疾病ですとやはり小児がんとなり、年間約800人のお子さんが亡くなられております。
医学が進歩してきたこと1991年に骨髄バンクができまして、骨髄移植の治療が血縁でなくともできるようになってきたことなど治療の成績は随分と上がってきています。現在では小児がんの70%はよくなると言われるようになりました。当会が設立された35年前から比べると、70%は驚異的な数字です。
このように多くの小児がんの子どもたちが治ってきているのですが、社会ではなかなかそのことを理解できない人が多く、最初にご紹介したような人が多いのが現状です。ずっと寝ていなくて大丈夫なんだろうか、スポーツをして、怪我でもして血が止まらなくなるのではないか。まだまだ小児がんに対する正しい知識がいきわたっていない現実があります。

●会の発足●

私どもの会は、今から35年前1968年に設立されました。会が設立された当時は、小児がんにかかった子どもたちのほとんどが亡くなる状態でした。小児がんで子どもを亡くしたお父さんが、病院に御礼をしたいと申し出られたときに、小児科の部長がちょうどアメリカから帰国された方で、アメリカには小児がんを支援する会があるから日本でもそれを作ったらどうかという提案がされました。そのようないきさつで、「がんの子供を守る会」ができました。その時、NHKで放送をしていただきました。そしてそれを見られた富国生命の会長さんから毎年1億円ずつ10年間10億の支援をしたいと申し出され、それを元にして私どもは財団となりました。

●会の活動●
自分の子どもががんになった時、小児がんの研究はどこまで進んでいるのだろうか、その進んだ治療がどこで受けられるのだろうか、諸外国と比べて日本の医療水準はどうなのだろうか、といろいろなことを親御さんは考えられます。経済的な問題も出てきます。親御さんは若くて経済的にまだ充分ではありません。当会では親御さんの支援のためにさまざまな活動をしております。

(1)治療研究助成
小児がんを治る病気にしようと、小児がんの研究に関して多くの助成をして参りました。
「小児がん研究会」ができまして、これが現在の「日本小児がん学会」になっています。現在でもこの学会の事務局は小児がんを守る会の中にあります。小児がん学会が開催されるときは必ず親のためのサテライトワークショップやシンポジウムを同時開催しており、今年はがんで治った子供たちをテーマにして行います。
(2)相談事業
当会では4人のソーシャルワーカーがいまして、電話や面接で医療や生活に関する相談を受けております。それからグループワークと言いますがお子さんをなくされた家族の方たちの交流会や疾患別の会を定期的に行っています。また病院内にある親の会がスムーズに行くように院内の親の会を支えることもしています。
(3)療養援助
治療費に関しては、小児慢性特定疾患研究事業が適用され無料ですが、差額ベッド代、二重生活による費用など間接医療費がかかります。そのために会では所得制限のある一般療養助成と付き添いをしたり、あるいは特別な治療、交通費などがかかる家庭に対して特別療養助成、最高20万までの2つの療養費の助成をしています。療養しているご家族には雀の涙のようなお金ではあると思うのですが、若いご家族にとっては経済的負担がとても大きなものがありまして年々申請が増えています。返還の義務はありません。
(4)宿泊施設
現在、当会では宿泊施設を2ヶ所運営しております。1ヶ所は江東区にありますペアレンツハウスです。遠隔地から治療にくる患児と家族のためが滞在するための施設です。
ペアレンツハウスは、総武線、亀戸駅から3分ほどのところに2年前に建ちました。一階が事務所、二階が相談室とセミナー室、3階が20室の宿泊施設になっており、1人1泊1.000円で80%の稼動率です。これはアメリカンファミリーと政府の補正予算によってできました。 
それとは別に中央区にあかつきハウスがあります。これは、中央区の公的住宅2戸を区民と同じ賃料で貸していただいており、がんセンターと国際聖路加病院に入院する小児がんや難病のお子さんの家庭が使っています。
(5)ボランティアの派遣
病院に入院している子どもたちのためにボランティアの派遣もしています。そのためには病院に入るボランティアのために研修を年に三回受けてもらいます。認定書をお渡しして病院内で気をつけることとか子供たちを遊ばせるためのことを研修していただいています。
(6)クラウンドクター活動
小児病棟に楽しいことを派遣する活動です。日本財団の助成を得てアンパンマン、ポンキッキーズ、人形劇、歌のお兄さんに病棟に行ってもらっています。
クラウンドクターとは、パッチアダムスのような人のことを言うのですが、子どもたちが手術室に行くときにピエロの格好をした人たちが、ずっと手術室に行くまでついていて「怖くないよ」と言ったり、手術室から出てきたら笑わせてくれたり、それをクラウンドクターと呼ぶということを当会の前理事長が聞いてまいりまして名づけました。
これをしてみて意外だったのは子供どもたちを喜ばせようと伺ったのですが、以外と親御さんが喜んだり看護婦さんが喜んだりしました。親や医療関係者の人たちがハッピーになることで、これはまた別の効果があっていいものだと思いました。
(7)地域活動・広報活動
当会には15の支部があります。それぞれの地域で活動をしてくださっている方々は小児がんの子どもの親、あるいは子どもを亡くされた親、ボランティアなどです。
小児がんに対する偏見がまだまだあり、正しく理解されていないようです。そこで、正しく小児がんについて理解してもらうために、いろいろな資料を用意して広報活動をしています。

●小児がん経験者の会 フェロー・トゥモロー●

治癒率が向上して思春期になった子ども達にどのように対応したらいいかわからないという親御さんの相談から、小児がんにかかった当事者の会(小児がん経験者の会)「フェロートゥモロー」の会を平成7年に発足させました。年6回の集まりを持っています。最初はソーシャルワーカー主導の活動でしたが、だんだんと自主的な活動になっていき、またいろいろな人の支援を受けられるようになりました。
社会に対して自分たちが病気になったことがどのような意味があるのかとか、自分たちが病気になってどのように感じてきたかということを、話をする機会も多くなり、外に対して発信することができるようになってきました。
「フェロートゥモロー」に参加できる条件は告知をきちんと受けていることです。自分の病気を知っていることですね。それと自分たちの意思で参加して欲しいということです。ある子どもが言ったことなのですが、告知を受けて自分が小児がんで何の違和感もなく暮らしてきたけれど、これってとても大変なことだったんだなぁ、と結婚するときに思ったそうです。結婚相手は好きだから特に何の障害もなかったけれど、結婚相手の親に自分の病気を話すとき自分の病気が問題になることは思ってもみなかったと。
 フェロー・トゥモローができる以前は、子どもの気持ちというのは、親を通じてしか聞くことができなかったのです。
「うちの子どもに小児がんだといったら落ち込んでしまって暴れるかもしれない。もしかしたら自殺をするかもしれない」と親たちは言いました。そして病気を告げるのは「中学生になってからでいいや、いや高校生になってから、いや20歳になってから……」と親たちは考えました。
小児がん経験者の会が出来てからこの子どもたちといろいろな話をするようになってフェロー・トゥモローのメンバーの人たちはこのように言いました。
「病気をしたのは自分たちなのだから親が背負うことはない。だから、病気のことをきちんと教えてもらわないと困る。それと、親たちが、告知の問題も小学生から中学生高校生になったからといって人間が代わるわけではないのだから、私たちが知りたいと疑問を発信したときに教えて欲しい」と。
子どもたちは、親が思うよりずっと強くたくましく受け止めていると知りました。感動しました。
では、告知を受けた子ども達のキャンプ(スマートムンストン)の様子を撮ったビデオがありますので見ていただきたいと思います。

―――――――ビデオ上映―――――――
質問コーナー

Q、小学校などの偏見をなくするために公的機関に働きかけて小学校に講演などされていらっしゃるのでしょうか?
A、呼んでくださればどこにでも行きます。小学校の保健の先生たちへの広報活動もしています。命の教育の一環として、親御さんや当事者の方を連れて行って体験を聞いてもらったりもしています。

Q、専門医療は東京でしか受けられないのでしょうか?
A、 そんなことはないです。各都道府県で、主に大学病院が中心になって治療に当たっています。例えばある県は大きな都市の病院に行くには交通の便が悪い人もいますね。その病院に行くのと東京に行くとの選択をされる場合はあります。宿泊施設の問題などもありますね。その点では家族で協議して病院を決められることもあります。

Q、学生です。ボランティアというのは特定な資格が要るのでしょうか?
A、いいえそんなことはありません。年に三回の講習会を受けてもらうのですが、病院ボランティアとはの話を桜町病院から来ていただいてお話をしてもらいます。二度目はお医者さんに来てもらって病気の子供たちと接する心構えを。例えば感染症などの説明。病棟から出るとき入るときの手洗いなどのレクチャーですね。三回目は保育士さんから子供の扱い方とか養護学校の先生から学校の意味とかを習います。あるいは遊び上手のおばさんから遊びを習ったり、受講生の希望を聞いて開催します。毎年受けていただいています。

お時間が来ました。
今日はどうもありがとうございました。

(2003年9月11日収録)文責:室井朝子