江東活學大學

第2回

<プロフィール>
文教大学人間学部卒業。故小宮山代議士秘書を経て、家業の製本業に従事。好きな言葉は『力を尽くして狭き門より入れ』。尊敬する人物は『シュバイツアー博士』。
趣味:歴史・映画・艦船。日本基督教団深川教会会員。一男一女の父。1961年生まれ。
『家族してますか』
出見世 公成さん

■講演

●家族心理学を学ぶ●
大学で家族心理学を勉強しました。家族を一つのシステムとしてとらえ、その中の一部分が崩れることによって、家族の中の最も弱い部分に問題が生じます。夫婦間の問題が子供の中に現れるというようなことですね。
最近は家族の孤立化も進んでいます。先日テレビで『13万通のメール』が放映されました。電子メールによるHP内の掲示板へ書き込みです。若いお母さんたちの育児・家族・病気、さまざまな書き込みがあります。なぜでしょうか。近所に相談する人がいないんですね。書き込みが多かったのは99年の春奈ちゃん事件ですね。御主人はお寺の住職。宗教家は人の悩みの相談に長けているはずですが、どうしたわけか対処していないですね。
家庭内離婚も増加しています。離婚される側の本人が気がつかないうちに進行している。ひとり立ちできるから離婚してくださいと突きつけられる。大体言われるほうはまじめに働いている御主人のほう。何故だろうというところに非常に大きな問題が潜んでいますね。皆さんの御家庭は大丈夫でしょうか?

●さまざまな家族問題を考える●
家族はいつも万点家族とは限らないけれど辛くなった時こそよりどころにすべきです。
夫と妻の関係。家族の中で最も大切な関係ですね。私も20代の頃は愛し合っている二人が一緒になれば幸せになれると思っていた。今は間違いだったなあと思います。なぜかというと、結婚とは夫婦の結びつきですね。けれどもそれまであったのは親子の結びつき。日本の場合は特に母との結びつきが強い。これを結婚するときに断たなければならない。これはなかなか大変なこと。河合治夫に言わせると愛の十字架というのですね。うまく言ったものですね。
私ごとですがやはり大変。自分は絵に描いたようないい息子だった。母は働いていたので、買い物にいけない。旅行に行くのでバックがいる。僕が買いましたね。女性に初めて買ったバックは母のバック。4万円くらいしました。当時僕は高校生。そうしたわけですから結婚するとなるとそれはもう大変。断ち切れない。ダイヤモンドカッターを持ってきても断ち切れない。

●母からの逸脱●
物理的な断ち切りかたというのは家を出ることです。これは比較的容易ですね。けれども私は家業を継ぐという非常に困難な道のりを選んだんです。結婚相手はした当初は意識しなかったが、母親と全く違うタイプをかみさんに選んでいましたね。母と違う人を選ぶということは母の敷いた路線からはずれるということ。母親は嫁が自分とは全く違うタイプですから気に入らないですね。そうすると母の呪縛から逃れられる。愛の十字架から。
母は自分との関係を断ち切っていく僕を山姥のような顔で見ている。ですから私は結婚写真を見ません。
この、『女性』である母親と息子の一体感を断ち切るのは父親の役割だと思います。
では父親は役割を果たしているか。それが一般的に見ても果たされていないのではないかと思えますね。私のところも断ち切れていない。
母親からの必死の逸脱は例えばビートたけしさんなんかも顕著にあらわれてます。彼は喜怒哀楽の感情を余り表に出してはいけないと言われた。だから彼は余り笑わない。チック症状の様に彼が引いたときだけお客さんが笑う。笑うことを規制した反動は暴力のほうに出る。フライデーの事件は人を一発ぶんなぐっています。暴力はやがて自分に向かう。肝硬変になったときはこれでも食らえとばかりにもっとお酒を飲む。自暴自棄。母親の『笑』を出してはいけないという教えが心に巣くっている。
母親が子どもを愛するという気持ちは大事だが、行き過ぎると子供を飲み込もうとする。受け止めるのではなく自分に取り込む。永遠にお母さんの中から出られなくなる。躾と愛情。これは両立しない。躾というのはある一定のものの中に入れる。愛情というのは無条件に相手を受け止める。躾の行き過ぎは問題ですね。

●父親の復権●
家庭内暴力の問題もありますね。それは母親にまず向けられる。そのとき父親は止めない。俺の奥さんに何するんだ、と止めればいいわけですよ。子供のほうも止めてくれるのを望んでいる。それを逃げて第三者的になってしまう。それは父性の拒否ですね。
父性の復権ということが言われましたが、子どもと向き合っていくことは重要です。家庭内暴力に関して父親が歯止めになってやらないと歯止めになるところはもうない。
社会に飛び出してしまわないように父親が歯止めになる。戦前は家父長制というものがありました。お父さんの権威は絶対だった。しかしこれは天皇制を支える組織のその末端に家父長制があったんですね。別にお父さんを立てるためにあったわけではないのですね。そこが誤解されている。
戦後はアメリカからニューファミリーが入ってくる。大草原の小さな家なんてね。お父さんを中心とした一家。あれはアメリカだからできるんです。大家族でまとまるより一単位家族で散らばっていたほうが開拓できる。日本はそういう土地柄でないのにニューファミリーが入ってきて矛盾が押し切れていないのではないか。  
お父さんは頑張っていますが、最近のお父さんは大変です。トイレを座ってと言われる。汚すから。遅く帰るのにお風呂の火が消えている。ガス代もったいないでしょうって。
「ただいま!」って帰ると「お父さん汗臭いから早くお風呂に入ってきて」って子供が言うのですね。確かに臭いです。当たり前ですよ。一日働いて帰ってきたらから汗臭い。臭いから早くお風呂に入ってというのはお母さんも言うのですね。一日一所懸命働けば汗は出る。しかし物には言いようがある。もう一つの言い方がありますね「一日大変だったでしょ。早くお風呂に入ってきて」……。
持っていき方によっては復権はありえる可能性もあります。今後の家族ってどうあったらいいか。いい時もあれば悪いときもあるがみんなが満点家族を求める。だからバランスが崩れている、そう思えてなりません。

●プラス地域力を●
私たちの家族を取り巻いている環境として昔は地域を取り巻いている地域力というものがありました。いまそれを考え直す時期にあるのではないかと思います。
アメリカの例ですが、双子の兄弟が施設で育てられたんです。7歳のときにジェフリーのほうが里親に引き取られた。そのとき里親はジェフリーの体験を聞いて空港で涙を流しながら抱きしめた。それから半年間で彼は普通の子供に戻った。全くの赤の他人が彼を受け入れることができた。私たちも地域の人間として彼の里親のように受け入れていく必要があるのではないかとこの頃思います。

●家族諸相●
擬似家族という言葉があります。
宮部美由紀の『RTG』という小説。心理学用語でローンプレーンゲームです。それぞれの人がお父さんやお母さんの役になる。宮部美由紀の小説の中ではネットの中で役割、架空の擬似家族をやって、それがやがて犯罪に結びつくようになる。
私たちの周りにもできつつありますね。お母さんが活動に熱心。外の仲間は非常に話をよく聞いてくれて心が安らぐ。家の中に何か問題点がある。うまく行かない。だから余計に外に出る。家庭よりも外の関係が大事になる。ある人が夫の代わりをしてくれて、ある人が息子の役になる。擬似家族の人のグループができてしまう。問題はなんら解決しないままに流される。その先がどうなるかわからない。ある意味責任放棄。
奥さんと話をするときは相手の目を見て話してください。この間僕はパソコンを見ながら話していたらパシッと閉められた。最近は新聞を読んでいると息子が新聞を取り上げるようになった。このあたりから息子と母親の一体感が増していくんですね(笑)。
先ほど私の母親の話の付け足しなんですが。母親は怖くてですね。小さいころに悪いことをして階段から猫を放り投げるように落とされそうになりましたね。本来父親が教えるべき規範もうちは母親が教えていた。お父さんには顔向けできないと厳しく躾られました。母親は村長を出した家。昔は家の格が今以上に尊重された。反対されたけど格の違う家に来たと母親は言います。相手を下に見る。お父さんはしょうがない結婚をしたのだなぁと子供心に思いましたよ。そういうことは本来口に出しちゃいけないんですが母親は言ってましたね。口に出すんだから余程思っていたか……そういうことが子供との結びつきが強くなる原因に、我が家はなっていったんではないかと。
■質問タイム

Q,父権の回復の地域の教育力が大事とおっしゃいましたがそれに関してもう少し具体的に。昔商店街などは忙しいから地域の子もひっくるめてやっちゃいけないことやいろいろ教えていったんですけど、どんどん新しい住宅が建っていって……いろいろな権力を作る必要は無いんだけど、あらゆる面で教育力が落ちているということはいいことではない。叱る大人は必要で、叱る大人になることも必要では?
A,特に今学校が週休二日制になり受け皿が必要になってますね。住民の受け皿になるためにNPOや第3セクターを作って、遊び勉強も含めてケアーする組織を作る必要があります。塾はお金がかかるから遊びも勉強も一緒にやればお母さん方の理解が深まるのではないでしょうか。

※時間があっという間に過ぎてしまって、参加者からまだまだ質問があったようでしたが会場の関係で充分に対応できず、申し訳ありませんでした。出見世さんには再登場の声も上がっています。次回、もう一度家族問題についてのお話の場を予定しています。
(2002年・10月収録) 要約文責:室井朝子