下町探偵団ロゴ万談ロゴ下町探偵団ハンコ
東京下町Sエリアに関連のある掲示板、コラム・エッセイなどのページ
 トップぶらりグルメくらしイベント交通万談 リンク 

第6回

第一話 落葉なき椎……麟太郎(りんたろう)誕生のこと
(六)

「ふん、一昨日(おととい)来やがれ」
 金四郎という若いのは、二人の背中に悪態をつくと、こちらに向き直ると、
「小吉っつァん、イヤサ、勝小吉さんだったね。
 いや、内所(ないしょう)で聞かせてもらった。ここんとこ、ずっと、三千歳に情を立てていたそうじゃあねえか。
 これで分かっただろう、『女郎の誠と玉子の四角』と言ってな。特にあいつには、河内山の仲間で片岡直次郎、またの名を〈直侍(なおざむらい)〉という間夫がいるんだ」
 内情を話して聞かせてくれた。
「それにしても、河内山の一味に引きずり込まれないでよかったぜ。あいつは、吉原なんぞで網を張っちゃあ、腕の立つのを手下にして、用心棒にしようって腹積もりだ。
 小吉っつァん、あんたの腕は見せてもらった。その腕を、悪事に使っちゃあ勿体ない。今日のところは、引き上げてじっくりと考えるこったな」
 二、三杯の酒で、すっかりと酔っぱらったオイラは、この芳村金四郎という笛吹きに送られて、家まで帰ったはずだが、腕を取られて大口屋を出たまでは覚えちゃあいるが、その先はトンと……覚えがない。
 ただ、首だけの美人が髪を乱し、手紙の端をくわえているのを見たような気がしたのは、ありゃあ夢か現(うつつ)か……。
                   
 これに懲りても、吉原通いを止めるわけにはいかない。
 久保島なんぞという悪い野郎とは、もう付き合いは止めたが、その代わり、剣術遣いに子分ができた。小林隼太(はやた)や小野兼吉という面白い奴らだ。大口屋には河内山の網が張られているっていうから、佐野槌に河岸を代えて、こいつらと一緒に遊びにいったものだ。
 そんな野良をしているのも、所帯を持っていないからだ、ということになり、とうとう、十八の年に、お信と身代を持って、亀沢町の彦四郎兄貴の所に一家を構えた。
 お信とは、七つの時から、同じ屋根の下に暮らしている。今更、女房というのも照れ臭いじゃあないか。三三九度の杯事が終わったら早速、小林や小野と吉原に出掛け、あいつをほったらかしにして、流連(いつづけ)を決め込んだ。
 日一日と帰りづらくなるのは、十分承知しているが、これもオレが馬鹿なところでしようがない。それでも、四日目には、使う銭がなくなり、家に帰った。
 何んと言って家に入ったらいいか分からないから、黙って玄関を入ると、気配で感づいたのか、お信が式台に出てきて、
「旦那さま、お帰りなさいまし」
と三つ指をつく。
 奥では、今まで聞こえていた、お祖母さまのお題目が止まり、咳払いがしきりにする。
 オイラは「おお」とも「ああ」ともつかない声で答え、差し料の盛光を差し出すと、お信は袂で受けて、こちらを見てにっこりと笑う。
 その時初めて、
(ああ、こいつがオイラの女房になったんだな)
と実感した。
 それからは、悪さは止まないものの、二十一の時まで、吉原は、いささか間遠になった--。
続く

2004/12/29

江東区、墨田区、中央区、台東区のネットワークサイト