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第四話 消えずの行灯……小吉、高野長英を匿うこと
(二)
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「そんな光景をオヤジから聞いて、子ども心ながら、『羨ましいな!』
と思ったヨ。
華山という人は、温順の男で、何もかもよくできた人サ」
海舟は、いかにも懐かしげに語った。
乙羽は、
(この評価には、小吉のそれも含んでいるに違いない)
と思うことしきりだった。
「それでは、例の〈蛮社の獄〉の時に、お父上は……?」
「うむ、今日初めて話すのだが、名前は表には出てこないが、あの事件にも、かなりの程度巻き込まれた。
というのは……」
*
華山に初めて会ってから間もなく、子竜先生が亡くなった。交際は途切れ途切れになった。その間、江戸家老に就くなどの変化はあったが、それでも小吉にとって、ずっと華山は、
〈心に残る人〉
の一人であったのは間違いがない。
そんな小吉を心配させるようなことが起きたのは、天保10年1月ごろのこと。
「渡辺さんの噂を最近は聞かねえが、海千山千の江戸留守居役に交わって、あの純なお人が巧くやってるんだろうかね?」
たまたま帰宅していた麟太郎に、華山の話をしていた小吉は、居候の栄次郎に尋ねた。耳の早い栄次郎なら、何か知っているかもしれない。
そんな心配をするほど、小吉は華山にすっかり惚れ込んでいたのだ。
「危ない、危ない!
今の世の中、あんなに純で開けっ広げな人は危険です。
小吉さん、何とかしてやらないと、渡辺さんは、とんでもない災いに巻き込まれかねませんよ。
とくに、目付の〈妖怪〉鳥居甲斐は、蘭学嫌いで有名だ。何か事あれかし、と虎視眈々と蘭学者を狙っているといいますから」
「何か聞いているのかえ?」
「ええ、鳥居は、ご承知のように、儒学の元締・林述斎の伜でさあ。儒学に対抗するような学問は、いっさい許せないというのが人情でしょ? それが元々あった上に……」
……江戸湾の防備検分では、すっかり恥を掻かされた。
というのだ。
検分を仰せつかったのは、鳥居と蘭学派の江川太郎左衛門。江川は華山の仲間〈蛮社〉の手を借りて測量したのに対して、鳥居は従来の技術者を起用、その報告書には圧倒的な差がついた。
元々の蘭学嫌いに、この事件の恨みが重なり、鳥居は、華山を始めとする〈蛮社〉に連なる者を、一気に粛清しようという思いを固めたという。
「そのことを知ってか知らずか、いまだに鎖国への批判をしているなんざあ、〈妖怪〉に対して無防備極まりないですよ」
「鎖国だ、開国だ、なんぞという難しいことは、オイラには分からねえが、そいつァあ剣呑だのう……」
と言ったきり。相手が目付となると、小吉にも巧い手が思いつかない。
(渡辺さんは、小藩とはいえ一藩の家老格。いくら陰険な鳥居とはいえ、おいそれとは手は出せまい……)
と自分に言い聞かせるのがやっとだった。 |
続く |
2005/6/29 |
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