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第五話 津軽の太鼓……小吉、津軽藩の悪巧みを暴くこと
(五)
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「ところで……」
座敷に腰を下ろすと、早速に精一郎が口を切った。
(早速に知恵を出してくれるんだな)
と思った小吉は、やや身を固くした。
「……〈しっぽく〉っていうのは、どんな蕎麦です?」
小吉はがっくりきた。
「玉子焼きやかまぼこ、椎茸、くわいなんかを乗っけた蕎麦だ。止めな、止めな! 花巻ならまだいいが、しっぽくなんざ、いい小父さんが食うもんじゃない」
がっくりきたあまり、言い方もいけぞんざいになる。
「じゃあ、しっぽく、を。小吉っつあんは?」
「姐さん、もりを三枚あつらえてくんな!」
今度は、精一郎がびっくりする番である。
しっぽく蕎麦を食い終わる頃には、精一郎の心気も落ち着き、道中もやもやしていた考えが、固まってきた。
(後は、いくつか確かめて、実際にこうできるならば……)
目をやると小吉は、
「考えるのは精一郎の役目」
とばかりに、最前とは違った安気な顔をして、三枚目のざる蕎麦に取りかかっていた。
「小吉っつあん、以前に加持祈祷の修行をしたことがありましたな」
「ああ、二十八、九の頃だ、本所に喜泉院こと殿村南平(とのむらなんぺい)というのがいて、そいつに教わり、行をいろいろしたっけが……」
「今でも、加持祈祷のやり方は覚えていますかえ?」
なぜ精一郎が突然そう言いだしたのか分からないながら、
(精さんの言うことだ、大事なことなんだろうぜ)
と思った小吉は、蕎麦をすすりながら素直に答えた。
「加持祈祷と一口に言ってもいろいろあるが、真似をしろっていわれりゃあ、今でも形だけはできねえことはない。もし、手妻を使うなら助っ人がいるが、まあ素人は誤魔化せるだろうな」
「できた!」
手を打った精一郎は、笑みを顔に浮かべ、
「それじゃあ、もう一度、修行当時に戻ってもらいますよ」
と冗談めかしく、小吉に命じた。
*
仕事師の女房にしては愛想のない女と、気の効かない子分に、やっとのことで身元を分からせて、やっとのことで、二人は長吉の住まいに上がった。
小吉が後で耳にしたところによれば、女房はそれ者上がりの後妻で、長吉の尻を引っぱたくばかり。黒石藩の御用を務めるようにはなったものの、町内の評判は下がる一方、ちょっと用の足せる子分は、次から次へと辞めていき、現在のような体たらくという。
そうとは知らない小吉は、無愛想なあしらいに中腹を立てているが、
「やあ、長吉、ひさしぶりだなあ!」
御神灯のともる一間に入ると、わざと陽気な声を掛けた。
長吉は、梅雨寒のせいか、綿入りの半纏をひっかけ、長火鉢につかまってやっとのことで起き上がっている。
肩で息をしながら、
「ああ、勝さん……」
と応える声も老人めかしい。
唇の側の傷も、多くのシワに紛れている。
(おれより二つ、三つ年上だから、四十四、五ってとこか。まだ、それほど老け込む歳じゃああるまいし、よっぽど今度のことが骨身に応えたな……)
との感慨が自ずとわいてくる。
「事情は聞いた。後はおいらに任せときな、悪いようにはしねえぜ」
「ああ、ありがてえ。昔はさんざっぱら喧嘩した仲だっていうのによ……。当節、こんなに心配してくれるのは、勝さん、あんただけだよう……」
というのがやっとの長吉。
「繰り言はいいから、もう横になってなよ。じゃあいいな、大船に乗ったつもりで、気を楽にして吉報を待ってろよ」
制する力もなくなったのか、長吉は涙と水っ洟を流しっぱなし。
「ありがてえ、ありがてえ……」
という長吉の、涙でくぐもった止めどもない繰り言を背に、二人は家を出た。 |
続く |
2005/9/28 |
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