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第45回

第五話 津軽の太鼓……小吉、津軽藩の悪巧みを暴くこと
(七)

 一方、麟太郎の食客・山内栄次郎。妙な嗅覚で、小吉たちの企ての一部始終を嗅ぎつけていた。栄次郎は、
(道純先生を、万が一にも、妙なことに巻き込み、おとがめを受けさせたくない、それには前以て知らせておくにしくはなし)
 と、先生の住まい、元柳原町へ注進に。
「……という話があるのです」
「先日から上屋敷が騒がしいと思っていたら、そういうことだったのですか。よく知らせてくれました。私も上屋敷の方へは、気を配っておきましょう」
 道純先生、義理の弟とはいえ、栄次郎より六歳年上。なかなか世馴れたところのある御仁である。
「ご隠居様は、元々、承保様に対してご不満。というのも……」
 隠居の信順は、
「すこぶる華美を好み、ややもすれば夜宴を催しなどして、財政の窮迫を見過ごしにし」
 との理由で、押込め同様にして、無理やり藩主の座を養子の承保に譲らされた。その背後には、「改革」を唱える水野忠邦一派がいることは道純も心得ている。
(このへんで、ご養子の立場にあることを分かっていただくために)
 というのが道順先生の肚の内。
                   *
 それからしばらくして、津軽藩の上屋敷に、たいへん功徳のある行者--妙泉院の噂が、奥向き・表を問わず広がった。
「妙泉院というのは、喜泉院の一の弟子だそうな」
「大評判だったものの、水野様のお取締で逼塞したという、あの喜泉院の弟子……」
「師匠譲りで、富籤の祈祷が、実によく当たるそうだのう」
「いやいや、富籤どころではない。失せ物、尋ね人などは、まるで見てきたようにピタリピタリと当てるそうじゃあないか」
「浅草奥山の水茶屋じゃあ、大評判!」
「それどころではない。下は長屋のかみさんから、町年寄の妻女、上は大奥のご老女衆まで、その行者の祈祷を当てにしているそうだ!」
 もちろん、その噂の火元は、言わずと知れた小野兼吉。
 江戸家老などは、留守居役の悪巧みなど知らないから、噂に乗って、
「殿、黒石藩を通じて、かねてよりお探しの板木、今評判の行者をお召しになり、お探しになればいかがなもので……」
 などと進言する始末。
                   *
 迎えの駕籠が、二ツ目の津軽屋敷玄関に横付けになる。
 下りてきたのは、白の上衣に白の袴、結袈裟を首に掛け、頭に頭巾(ときん)を頂く、おなじみの山伏姿の勝小吉。
 黒縮緬の袷羽織に平袴、という用人の姿恰好なのは男谷精一郎。
 二人に付き従うは、小吉と同じく山伏姿の小林隼太。どうやら、こちらは、行者の弟子という役どころらしい。
 屋敷の一間に通されると、隼太は炮烙を据え付けたり、護摩木を並べたり大忙し。それができたころを見計らって側用人が、藩主の出御を告げる。一同は、平伏して迎えると、挨拶もそこそこに、〈行〉へと移る。
「臨、兵、闘、者、皆、陳、列、在、前」
 行者は「九字」を唱え、不動根本印を結ぶ。
「『臨』は天照皇大神すなわち毘沙門天、『兵』は八幡神すなわち十一面観音、『闘』は……」
 と解説を加えるのは精一郎。夕べ遅くまでかかって棒暗記したにしては、口調に淀みがない。
 行者は気合一声、刀印をもって切り付ける。
 ボッと音を立て、炮烙の上に設えられた護摩木に火が着く。
「オオーッ!」
 一同からは、声にならない感嘆の声が上がる。
 何のことはない、護摩木の側に座っている隼太が、木に撒いた火薬と焼酎に、隠し持った火縄から火を着けただけのこと。皆の目が、派手な動作の行者に注がれている隙を狙っての手妻である。
 たとえ手妻であっても、一同の心は一瞬にして行者に奪われてしまった。後は、口車にいかに乗せるか、腕の見せ所である。
続く

2005/10/12

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