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第五話 津軽の太鼓……小吉、津軽藩の悪巧みを暴くこと
(九)
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平井修理は、
(それでは上意とたばかって、討ち果たして口を塞ぐよりほかに……)
と思ってか、周囲にいる若侍たちに目配せをしようとした時も時、
「勝さんじゃあないか。道純だよ、当家医官の道純だよ」
坊主頭の男が、ひょっくり現れた。
「やあ、これは先生! 柳島のご隠居様のとこじゃあなかったんですかい」
「いや、今日はたまたま奥向きにご挨拶に伺ったところ。
奥方様にとりとめもないことをお話していたら、表で何か騒ぎがあるという。
私も物好きなものだから、のこのこ出て来て覗けば、行者様が留守居役の平井氏とやり合っている。ひょいと行者様の顔を見たら、勝さんじゃあありませんか。そこで、あまり久方ぶりなので声を掛けました。
事情の細かいことは分からないが、ここは一つ、この坊主頭に免じて、勘弁してくれませんか」
と、隠居付きのお医者は、膝をつくと、式台を擦るように深々と頭を下げた。
「先生に、そう言われちゃあ、手を引くより仕方ありませんやね。
やいやい、修理! 今日のとこは道純先生に免じて引き上げるから、二度と悪さを仕掛けようなんざあ、考えるんじゃあねえぞ!
じゃあ、先生、御免こうむります」
小吉と道純とは顔を見合わせる。うなずきあう二人。
小吉は「それでは後はよろしく頼む」と表情で語ったつもり。
道純は「万事心得た」との肚を見せる。先生は芝居好きゆえ、団十郎顔負けの名演技だ。
刀の柄に手をやり、立ち上がろうとした若侍を、道純は目顔で制する。平井修理も、「今はまだ待て」とでも言うように、後手で若侍を抑える。
玄関の辺りは、ギリギリという若侍の歯噛みの音が聞こえそうなほど、静まり返っている。
屋敷の奥から、刻を告げる時計の鐘の音。
小吉は、供の姿の精一郎と隼太にうなずくと、玄関にサッと背を向ける。その後姿は、隙だらけのように見えて、一部の隙もない。
「所は陸奥の、所は陸奥の、
奥に海ある松原の、
下枝(しずえ)に交じる潮芦の、
末引き萎る浦里の、
籬(まがき)が島の苫屋形。」
『善知鳥(うとう)』を謡う朗々とした声が、遠ざかろうとしている。
芝居なら玄関のすぐ外に、お誂え向きに松の巨木などがあるところだが、現実はそうもいかず、咲き誇る紫陽花を背景に、無愛想な蘇鉄が一本。
「チィイッ、修理と同じで気が効かねえぜ」
などと口では言いながらも、小吉はまんざらでもない様子。
精一郎は一安心して、
「囲うとすれど疎らにて、
月のためには外の浜、
心ありける住まいかな、心ありける住まいかな」
と小吉の謡に続けた。 |
続く |
2005/10/26 |
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