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下町音楽夜話

◆第14曲◆ レコード・コレクター
2002.09.20
 つくづく不満に思うのが、下町、特に江東区界隈にはレコード屋があまりないことだ。度重なる水害の歴史のなせる業か、骨董屋の類もあまり見ない気がする。まあ歴史的に骨董屋は城下町や門前町に多いと言われ、特に独自の文化が栄えた地域に多いと言われている。そうすれば、江東区などはお不動さんや八幡さまのある門前仲町界隈、天神さんのある亀戸あたりにお宝の眠っている骨董屋があってもおかしくはないのだが、どうも合点がいかない。

 自分の親父が外国航路の船にのっていたせいか、母親が洋物好きだったのかよく知らないが、物心ついたころから、西洋のものが家の中にあふれていたような気がする。テレビでも、「サンセット77」「奥様は魔女」「モンキーズ」に「パートリッジ・ファミリー」などをよく見ていた。「コンバット」やら「U.F.O.」などの方が子供の自分には面白かったはずなのだが、生活臭が無かったせいか、あまり記憶には染み付かなかった。大きな車や冷蔵庫というのが、一般的に憧れの対象として見られたようだったが、自分は生活様式の違いにばかり目が行ってしまい、ストーリーはよく理解していなかった。とくに台所の造作の違いや窓の開け方が違うこと、家の中でも靴をはいていたり、どこの家でも大きなソファーやベッドがあることなどが面白かった。

 「奥様は魔女」のダーリンが途中で替わってから、タバサちゃんという子供が生まれたが、あの赤ちゃんは双子の姉妹を起用していて、ご機嫌のいい方を撮影に使っていたのは有名な話だが、この双子の姉妹が70年代半ばに下着姿で出てきたランナウェイズのボーカル、シェリー・カーリー(当時はチェリー・カーリーと呼ばれていた)とマリー・カーリー姉妹だということはあまり語られない。まあ、こういったどうでもいい話を仕入れてきては友人から呆れられていたが、だんだん興味は「この曲のオリジナルは誰か」や「参加ミュージシャンは」というあたりに行ってしまい、今現在のレコード・コレクター的な趣味が確立した。若い頃、音楽は聴くものであって、聴きもしないでコレクションしていることに嫌悪感を抱いていた。自分はコレクターの割には聴いている方だとは思うが、忙しくて聴く時間がとれないことが悔しい。すっかりコレクターとしての自覚はあるが、まあこれもありかという感じだ。

 自分が音楽を聴き始めた70年代前半頃は、洋楽のレコードは数ヶ月のタイムラグがあって日本に入って来たし、モノによっては日本発売なし、ということも結構あった。今のように、ほしいアルバムがすべてリアルタイムで手に入る状況になったのは、もっともっと後のことだ。あの頃欲しくて欲しくて探しまくり、結局買えなかったレコードは数知れない。必死になって聴いていた分、思い入れも強ければ買い逃した恨みも深い。20数年来探し続けて、中古盤屋さんでようやく手にいれたLPレコードというものが結構ある。買って帰ってきて家のターンテーブルに乗せ、針を落とす瞬間のワクワク感は、こういった趣味のない方には決して理解できまい。ましてそのレコードの中身が至極よかったりしたら、嬉しくもあり哀しくもある、ちょっと複雑な気持ちになるのだ。もしこのレコードに高校生の頃めぐり合っていたら、その後の趣味やいろいろなものが違っていたかも知れない、などと思わせるものもたまにはある。まあ大方は年数が経ち過ぎていて、「うーん、こんなものだったか」という感じなのだが。最近はまっているスティーヴ・マリオット関連の諸作は、幸い前者である。ハンブル・パイの頃のソウルフルなヴォーカルと図太いギターは、早くに知っておきたかったものの好例だ。後者の例は、ここで言及することもあるまい。

 自分は、レコード探しという用件では、渋谷には行かない。世界で一番レコード屋さんが集まっている町は西新宿7丁目だそうで、一方常に最先端を追いかけてホットな音楽戦争が繰り広げられ、枚数が多く売れる地域が渋谷なのだそうだ。西新宿7丁目にはたまに出かけるが、自分はほとんど御茶ノ水・神保町界隈を中心とした老舗のレコード屋さんあたりを徘徊している。もちろん聴いているものが70年代のロックや、もっと古い50年代・60年代のジャズだったりするのだから、渋谷にはあまり用がないのだが、それ以前の問題として、あの町でのレコードの扱われ方が気に入らないのだ。全ての店がそうというわけではないだろうが、多くの店ではアルバイトのような若い店員が、平然とアルバム・ジャケットを水平に片手で持ち、店の宣伝を兼ねた袋に放り込む。いかにも物を大事にすることを知らなさそうな店員の所作も気に入らなければ、値段も気に入らない。信じられないような高値をつけて、勝手に独特の市場を作り上げてしまっているのだ。当時どういう聞かれ方をしていたかも知らないような若い査定担当が、「超レア・アイテム、・・・万円」などというポップを作っている姿を見ると、本当に腹が立つ。

 所詮レコードは、新品当時の売値以上の価値はないと思う一方、聴く者によっては文化遺産としての価値がある。その価値は金銭的な価値基準では決して計れないのだ。オヤジの懐古趣味と笑われるかも知れないが、昔の学生街のレコード屋はホントに盤を大事に扱った。扱いの雑な客に、大声で怒鳴りつけるオヤジがいる店もあった。アナログの雰囲気が、癒し系だのと言われて変にもてはやされ始めてからは、かえって売り物のレコード盤がぞんざいに扱われる傾向にあることが不思議でならない。