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下町音楽夜話

◆第126曲◆ ピンボールの魔術師
2004.11.13
下町の音楽漬けオヤジは、相変わらず懐古趣味に陥っている。センチメンタルな感覚がないといえば嘘になるが、古い曲から学ぶことが多いのも事実である。そうは言ってもいろいろあって、ジャズのスタンダードとは違うのだが、多くのミュージシャンにカヴァーされる古い曲というものがある。曲がいいからと済ませることもできるのだが、どうもそれだけではないようで、自分の個性が出しやすい曲というように、素材に適した曲というものがあるようだ。そんなことを、エルトン・ジョンが歌う「ピンボールの魔術師」を聴きながら考えてしまった。この曲のオリジナルはモッズの雄、ザ・フーだが、ニュー・シーカーズのようなコーラス・グループまでがカヴァーしているのだから面白い。

エルトン・ジョンのように作曲の才能が有り余るほどある人間がどうしてという気がしなくもないが、これは映画の「トミー」で本人が出演して歌っているのだから当然と言えば当然のカヴァーなのだが、ザ・フー版も素晴らしい出来だし、大きくアレンジを変えてあるわけでもないことがまた面白い。その一方でビートルズの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンド」のカヴァーでも全米ナンバーワンになっている。こちらはこちらでジョン・レノンと賭けをして一位になったらライブにゲスト出演することを約束して、実際に一位になり負けたジョン・レノンは約束を果たした。おかげで世紀の共演が実現し、ライブ盤となって発売もされたわけだが、結局こういう話でもない限り、オリジナルの方がやり易いのか、その後のエルトン・ジョンは目立ったカヴァーがない。

ザ・フーは今年の夏のイヴェントで初来日を果たしたのだが、真夏の野外はもう二度と行かないと心に決めているので、最初で最後かも知れない来日公演なのに、見損ねてしまった。そもそもザ・フーは、よその国と比べて日本では例外的に人気がないようなので、果たして盛り上がるのかと疑問に思っていたのだが、予想外の熱気だったようだ。ザ・フーのライブ音源は、ここ数年の全公演をインターネット上で販売している。よほどのマニアでもない限りコレクションしようという気にはならないだろうし、いつでも聴けると思うと買う気もしない。オリジナル・アルバムはすべて持っていて、それなりに好きな曲が何曲もある連中なのだが、どうもその辺の感覚についていけないものがある。件のサイトでは横浜と大阪で行われた今夏の来日公演も当然ながら売られていて、かなりの人気なのだそうだ。

一方でビートルズや多くの1960年代に活躍したグループは、みな古いロックンロールのカヴァーを多く残している。ジョン・レノンは解散後のソロでも、ベン・E・キングの「スタンド・バイ・ミー」を素晴らしく格好いい演奏でカヴァーしているが、こういう名コンポーザーがカヴァーすることの面白さは一体何なのだろう。ミュージシャンもやはり人の子、こどもの頃聴きまくった曲をカヴァーしているのだろうか?ブリティッシュ・ロックのミュージシャンが何人か顔を揃えると、音あわせを兼ねてか、すぐにロカビリーや古いロックンロールのカヴァーで楽しんでいるというのも有名な話だ。海賊盤にはこういった音源が結構流出しているので、その辺の事情も知れるのだが、本当に好きなのだろう、随分いろいろな音源がある。楽しそうにやっているせいか、聴いていても楽しい。割と好きな世界である。

また多くのグループが昔はよくコンサートの終盤で、ロックンロール・メドレーのようなことをやって楽しませてくれたものだ。デビューしたてのバンドが、レパートリーの少なさを穴埋めするためにやるようなものではなく、やりたいからやっているというような、ベテランのものが好ましい。最近のコンサートではあまり観られなくなったが、昔はよく終盤になるとチャック・ベリーのメドレーなんぞが登場したものだ。「ロックンロール・ミュージック」や「ジョニー・B・グッド」などはそういう目的で作られた曲かと錯覚しそうになるほど、多く聴かれたものだ。そしてそんな中でちょっと気になるのが、ジェネシスのロックンロール・メドレーだった。

オリジナル曲の「ターン・イット・オン・アゲイン」に挿入される形で披露されるメドレーにはローリング・ストーンズの「サティスファクション」やフォー・トップスの「リーチ・アウト、アイル・ビー・ゼア」など、誰でもが一度は耳にしたことがあるようなフレーズをたたみかけるように演奏する。そしてそのメドレーの中に先述の「ピンボールの魔術師」も含まれているのだ。そうアタマの一音で「あっ!」と判別できるフレーズがなかなか格好いいのである。テクニック的に難しいことをやっているわけではない。カッティングの瞬間にフィンガーボード上にある左手の指を少し上方にスライドさせているだけなのだ。本当にそれだけなのだが、何故か格好いいフレーズに聴こえるのだ。昔の曲にはこの手のものが多かった。簡単なことを妙に格好良く聴かせるワザというものがあったのだろうか。

最近は若い連中のコンサートはとんとご無沙汰だが、今でも古い曲を格好よくカヴァーする連中は多い。しかし最近の曲とリフ中心の昔の曲とでは、スタイルが違いすぎてカヴァー曲が浮いてしまいそうな気もするのだが、そうでもないのだろうか。ただ昔の曲をタイトなりズムで、ビシッと演奏されると、たまらなく格好いいなと思ってしまう。1970年代にチャック・ベリーの曲を、アップテンポで、しかもかなり分厚い音で演奏する場面に多く居合わせた身としては、心配するには及ばないだろうと言うべきか。つまり歴史は繰り返されるだけなのだ。時代の音や演奏スタイルというものもあろうが、何もセンチメンタルに古い曲を演奏しろというのではなく、温故知新、古いもののいいとこ取りをして、時代感覚さえ見誤らなければ、いつだって面白いことはできそうな気もするのだ。しかし世の中はそれほど甘くもないかな。古い曲にラップを被せるだけなら、20年前にランDMCがやっているしな・・・。