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下町音楽夜話

◆第139曲◆ 生活感
2005.2.19
いくら地球温暖化とはいえ、やはり2月の東京は寒い。下町の水面を渡る風がこれまた冷たい。最近は高層ビルも増えて、さらにビル風が冷たさを増幅してくれる。身も心も引き締まる思いがする1月が過ぎて、年度末に向けて忙しくなり、不機嫌になりがちな季節でもあるが、昔と違い凍えるようなおもいをすることも昨今ではなくなってしまったので、なかなか実感が湧かない。帰宅途上で、家に帰ったら暖かいだろうと想像しながら足早になる感覚というものは、悪いものではない。勿論円満な家庭があり、オヤジの居場所があることが前提条件かもしれないが・・・。

雑貨屋さんめぐりが好きなつれあいに付き合って、時々下町を抜け出し、銀座や青山あたりに足を向けることがある。街全体に雑貨屋さんが散りばめられているような自由が丘にも、以前はよく出かけたが最近は足が遠のいてしまった。アフタヌーン・ティやフラン・フラン、キャトル・セゾン、私の部屋などという有名どころの店には結構定期的に顔を出すわけだが、勿論自分は場違いでもあろうことは自覚しているし、暇を持て余してボーッとあたりを眺めていることが多い。そういった状況では、ついつい失礼と知りながらマン・ウォッチングをしていることもある。

ファッション関連のショップで見かける女性とはどこかしら違う、そういった雑貨屋さんあたりで見かける女性たちは、容姿云々は抜きにして、なぜか幸せそうに見える。生活に目が向いているということがそう思わせるのか、飾り立てることを念頭に、つまり単に自分を美しく見せるために、洋服などを物色している女性とは違い、どことはなしに自然な美しさに裏付けられた幸福感を発しているのである。それはその人間自体が醸し出す生活感となって、その人間の生身の魅力や美しさにもなるのではなかろうか。そんなわけで、自らの生活を美しく飾る生活雑貨に拘ることが、自分は大事だと思っているのである。

ともあれ、空間の居心地のよさというものは、いろいろな要素が折り重なって作られるもののようだ。音や香り、明度、温度、湿度などは当然ながら重要な要素であろう。一方でそういった空間をデザインするような小物も、それなりのウエイトを占める要素の一つである。個人個人それぞれがいろいろな境遇のなかで生活を営み、この大都会に暮らしているわけで、その生活全般を彩る諸々の雑貨が、生活に潤いを与え、明るい気分にでもしてくれるのであれば、それは非常に価値のあるものだとも思う。性格的にモノが捨てられないことの言い訳でもあるのだが、こういった細かいものが人々の生活に与える影響を軽視すべきではないとは思っている。

何が言いたいかというと、そういった小物は時代を反映するものでもあり、記憶に刷り込まれた時代性と限りなくリンクしている場合が多い。例えば、トリスのおじさんの楊枝たてやスーパーカー消しゴム、・・・何でもかんでもアメフト・チームのロゴが入っていた時代もあった。大阪万博の前後には岡本太郎デザインのものが多かった。自分など、部屋の天井に張ってあったポスターと同じものが、ミニチュア・サイズになって、紙ジャケットCDに付いていたりすると、瞬時に子ども時代にタイム・スリップできてしまう。人間は過ごしてきた時間だけ思い出を有し、その思い出が築いてきた感性に基づいて行動し、暮らしているのである。その暮らしを彩る雑貨や小物を大事にしないと、ろくな思い出もなく、気が付いたら年とっていたという、浦島太郎的なおもいをすることになるのではなかろうか。

さて、そんな雑貨屋さんでも、商品の傾向はいろいろある。中でもアーリー・アメリカン・スタイルとかカントリー・スタイルなどと呼ばれるショップでは、多分知らずに流しているのだろうが、BGMとしてニッティ・グリッティ・ダート・バンドやウッディ・ガスリーなどが流れていたりして、自分としては非常に心地よい。手触りのよいパイン材の家具や使い込まれたアンティーク小物などに囲まれ、古臭い音楽を掘り下げるというのも楽しそうだ。いまだにSP盤と蓄音機の世界には手を出してはいないのだが、時間的な余裕さえあれば、一度は試してみたいとは常々思っている。

今回のエッセイがアップされる土曜日、自分はまたまた場違いなコンサートに行くことになる。偶然チケットが手に入ったということでもあるのだが、実はもの凄く観てみたかったコンサートでもある。それは何かというと、Every Little Thing なのだ。そうJ-Popの代表的存在のあのユニットである。オヤジ・ロックやジャズばかり聴いている自分には、縁のない世界の代表選手である。しかし、いかんせん、この連中の曲はよいのだ。リフやコード進行の似た曲が多い上に、聴きなれた洋楽の女性ヴォーカルと比べれば、持田かおり嬢のヴォーカルは、音程はしっかりしているのだが、いかんせん細い。決してディーバと呼ばれる類ではない。初期の曲はglobe と区別がつかないくらい個性もない。しかし、メロディは極上である。最近聴いている女性ヴォーカルというと、ノラ・ジョーンズ以外はエラ・フィッツジェラルドやビリー・ホリデーなどのジャズ・ヴォーカルがほとんどなので、全く別物としてしか聴けないのだが、やはり悪くないのである。・・・変かな?

さてこの女性、どうも先ほどまで述べてきた雑貨屋さんあたりにいてもおかしくないような生活感がある。それも至極ナチュラルなものを感じる。勿論ファッション・リーダーとしての彼女を知らないワケではないし、歌っている内容は、ほとんどがラブソングなのだが、どうもそのへんのナチュラルな生活感がタダモノではなさそうなのだ。鋭い感性を持っていそうなのに、どういうわけか地に足が着いたところも感じるのである。何となく幸せをおすそ分けしてくれそうな気もする。現代のナチュラル・ウーマンのステージがいかなるものか、実に楽しみなのである。

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