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下町音楽夜話

◆第307曲◆ 1982ヴァージョン

2008.5.10
4月はそそられるCDがいろいろ発売になった。早くから注文していたものをようやく受け取り、ゴールデンウィークは聴き比べとあいなったわけだが、その中でも、最も気になって仕方がなかったのが、ホワイトスネイクの絶頂期の3作がSHM−CDで再発されたのである。とりわけ1987年の「サーペンス・アルバス」は聴き狂ったアルバムだけに、その音質が劇的に向上していると聞けば、そそられないわけがない。また一方で、同日にヴァン・ヘイレンもデイヴィッド・リー・ロス在籍時のアルバムが一気に紙ジャケで再発された。こちらは少々前のリマスタリング音源のようで、音質のほうはそこそこの期待といったところだ。その他にも、全然期待していなかったホワイトスネイクのニュー・アルバムは妙によくできており、予想外の収穫となった。ロック好きには嬉しい悲鳴が出る月となった。

さて、11年ぶりの新作がどこぞのチャートで、いきなり1位になるという久々のヒットとなったホワイトスネイクは、ちょうど一年前の2007年5月の来日公演が、まだ記憶に新しいが、新作では大好きなトミー・アルドリッチが抜けており、少々残念だった。しかし、新しいドラマーの何とかさんもなかなかいいリズムをたたき出す男だ。二枚看板のギター、ダグ・アルドリッジとレブ・ビーチは、すっかり馴染んだようで随分いい演奏を聴かせている。今回のアルバムは曲がかなりよくできていて、アルバムのトップを飾る「ベスト・イヤーズ」や、久々にカヴァーデイルらしいのどを披露するバラード曲「サマー・レイン」などは、ライヴでもきっと映えるであろう上出来の曲だ。

しかし、今回、自分の興味はどうしても再発モノのほうに行ってしまった。如何せんSHM−CD、なかなか侮れない音質の向上を見せている。やはり先月発売されたマーティン・スコセッシ監督がローリング・ストーンズの現在を撮影した「シャイン・ア・ライト」のサントラ盤は二枚組のライヴ盤だったのだが、これもSHM−CDだった。ここでは、クリアな音質に驚かされた。メディアの材質の問題なのかどうかは、比較のしようがないので何等確認のしようがないが、第一印象は非常によい。これなら期待できるなと思いつつも、この程度で持っているCDを買い換える気にはならないとも思う。もちろんそこはレコード会社の経営戦略もあろう。その戦略に乗せられたふりをして楽しんでしまうのも悪くはない。また1980年代にリリースされたCDを、リアルタイムで購入して長年聴き続けてきたものを、最新のリマスタリング音源で、しかもこのSHM−CDで聴けるのであれば、考えなくもない。1980年代のCDは素材の研究が進んでおらず、白濁して読み取れなくなったものや、腐食してデータが書き込んである基盤に小さな孔がいっぱいあいてしまったものなどもあるようだ。大好きなアルバムであれば、考えなくもないといったところだ。

また、1980年代というのは、アナログの12インチ・シングルが流行った時期でもある。ホワイトスネイクもご他聞にもれず、白いヴィニールの12インチ盤をリリースしており、大好きな「ヒア・アイ・ゴー・アゲイン」の12インチ盤は、ちょっとしたお宝なのである。自分はリリースされたときにすぐに入手したが、その後、このレコードを中古盤店などで見かけたことは一度もない。しかも、この盤、妙に音がいいのである。1980年代後半、アナログ技術が成熟の極みにあった時期の12インチ盤の音質が悪かろうはずはない。CDよりもはるかに高音質で鳴るこのアナログ盤から知れることは、マスターは相当高音質で録音されているということだ。これを現代の技術で再生すれば、信じられないような高音質で聴けるのではなかろうか、などと想像してしまうではないか。

そして、結果はどうかというと、期待は裏切られてはいない。かなりクリアな音質になり、高温も低音もメリハリがきいて、ロック然とした音質になった。何よりも、音が大きい。音が大きいだけで、ろくに音質が改善されていないリマスタリングも世の中には多く存在するが、これはそういった類のものではない。ただ元の音が大きいということは、オーディオ的には有利なことばかりなので、歓迎すべきことではあるのだ。最近のニアフィールドで聴かせる傾向が強いスピーカーなどは、音量を絞り込むと低音が思い切り貧弱になるので、元の音が大きいとその低音域の減衰が抑えられ、夜中に小さな音で聴いても、それなりに迫力がある音で響いてくれるのである。

さて、第204曲でも書いたことだが、この「サーペンス・アルバス」に収録されている「ヒア・アイ・ゴー・アゲイン」や「クライイング・イン・ザ・レイン」は、1982年のアルバム「セイント・アンド・シナーズ」に収録されていたもののリメイクである。今さらに、なるほどアレンジ次第で曲は随分と違って聴こえるものだと思う。しかし、1982ヴァージョン、それほどひどいものだろうか。確かに1987ヴァージョンは大ヒットしたわけだが、1982ヴァージョンもブルージーなフレーズが心地よいアナログ向きの演奏で、自分は決して嫌いではない。バーニー・マースデンとミッキー・ムーディという2人のギタリストは、バンドのカラーに合っている。1982年の時点では最高の選択だったと思うし、ニール・マーレイのベースも、イアン・ペイスのドラムスも、ジョン・ロードのキーボードも、1970年代的ではあるが、決して悪いものではない。前作「カム・アンド・ゲット・イット」に収録されている「ワイン・ウィミン・アンド・ソング」や「ティル・ザ・デイ・アイ・ダイ」に続いて、「セイント・アンド・シナーズ」に収められた「ブラッディ・ラクシュアリー」などは、いずれも独特のノリを持ったロックンロールで、前期ホワイトスネイクの大きな個性とともに魅力となっていたように思う。

思うに、先月も紙ジャケットCDが同日にリリースされていたヴァン・ヘイレンあたりが大ヒットしたおかげで、リスナーの耳が変わってしまったのではなかろうか?それまでは明らかにメインストリームにはない異質な存在だったヘヴィメタ・バンドの曲が、チャートを席巻する時代が目前に迫っている時期である。1980年代のアイコンと言っても過言ではない、ヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」は、1983年の大ヒットである。1982年と1987年の、ロックを取り巻く状況はまるで違ったものだったのだ。産業ロックなどといって、売れるロックが悪者扱いされる時代がくるとは、1982年の時点では誰も予測し得なかったはずだ。エイジアのファースト・アルバムが1千万枚の売り上げを記録した1982年、昔ながらのスタイルのロックが大きな岐路に立っていたことなど、誰も気づいてなかったのである。こうなると、・・・やはり前期ホワイトスネイクも、SHM−CDで聴いてみたくなってしまった。これはもう、エンドレスだな。


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