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下町音楽夜話

◆第366曲◆ 偉大なるコピー・バンド


2009.6.27

どんなミュージシャンであれ、ライヴは観られるときに観ておかないと、次があるという保証はどこにもない。油断をしていると、何時でも観られると思っていたものまで見逃すことになる。先日MR.BIGの武道館公演に行ってきたのだが、この連中も日本贔屓だし、しょっちゅう来日しているから何時でも観られるだろうとたかをくくっていたら、ポール・ギルバートが脱退してしまい、猛烈に後悔したのだった。結局後釜に名手リッチー・コッツェンを据えて延命はしたものの、2002年に13年間の活動に終止符を打ったのであった。それが今年の2月に、突然オリジナル・メンバーで再結成、来日公演も予定されているというニュースが流れ、何が何でも観たいという思いが募ってしまったのだ。

結成20年目の年に10年ぶりにオリジナル・メンバーが集まり、懐かしの武道館でライヴをやるというと、昔のファンが同窓会的に楽しむ場を提供してくれているだけという気がしなくもなかった。また、ファン投票で収録曲目を決めるというベスト盤「ネクスト・タイム・アラウンド」も4月にはリリースされ、随分盛り上げてくれるなという感覚と同時に、何だか商売に走っているかなということも気になってしまった。しかし、やはりライヴを観てしまえば、そんなマイナス思考も吹っ飛んでしまう。相変わらず滅茶苦茶上手いし、楽しいステージでいろいろ盛り上げてくれた。全盛期に観ておきたかったという気持ちも消え失せたわけではないが、まだまだ十分に現役だし、ようやくヴェテランの域に達した各メンバーは、余裕の表情でステージをこなし、自分達も十分に楽しんでいるようだった。

今回は札幌から福岡まで全国を縦断するツアーだったが、東京公演は日本武道館1回きりである。翌日に横浜アリーナで追加公演が行われることにはなったが、東京では一日限りなのである。かなり早い段階で売り切れてしまい、相当のプレミアム・チケットとなっていたようだ。自分の席は2階スタンドの後ろから2列目といったあたりだが、座って観たいので、これでよかったのだ。しかし、初夏の陽気が暑く感じられるほどの土曜日、夕方5時スタートのライヴは、猛烈なものとなってしまった。ヴィデオ収録が早くから予告されており、ただでさえ熱演が期待できる。アリーナ中央付近にサテライト・ステージを設けてあるレイアウトは、2階席の後ろのほうでも十分近くに姿が捉えられ、堪能はできた。しかも、1曲目からほぼ全員総立ちという状態で猛烈な盛り上がり方だったため、武道館が巨大なサウナと化してしまった。いやはや、大汗をかいて、まるでスポーツでもした後のような状態になってしまった。

自分はこの連中を偉大なるコピー・バンドだと思っている。素晴らしいメロディを持ったオリジナルのヒット曲がいっぱいあるにもかかわらず、ライヴでは随分他人の曲を演奏するのだ。しかも自分のようなオジサンが楽しめる選曲だったりするので、つい期待してしまう。結果的に今回も予想以上に楽しませてくれた選曲であった。まずは、最新ベスト盤「ネクスト・タイム・アラウンド」に唯一収録された新録曲は、アージェントの「ホールド・ユア・ヘッド・アップ」である。キーボードのピロピロしたフレーズをギターとベースで再現しており、なるほどといった演奏だ。さすがに観客は平均年齢30代中盤といったところなので、1972年の元ネタを知る者は少なかろう。他の曲と比べると、少々盛り上がりに欠けたようだ。また、スリー・ドッグ・ナイトの「イッツ・フォー・ユー」からパット・トーピーのドラム・ソロに移っていくあたりでは、ホルストの「惑星」のフレーズを再現していたし、叩きながらちょいとあやしい感じで歌っていたのは、ビートルズの「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」だった。とにかく、あれやこれやと楽しませてくれる。

アンコールでは全米ナンバー1の大ヒット曲「トゥ・ビー・ウィズ・ユー」と、猛烈なハードロック・チューン「コロラド・ブルドッグ」の2曲できれいに締めたので、これで終わりなのかなとも思わせたのだが、まだまだ先があった。ポール・ギルバートがいたずらでもしてやれといった表情でステージに戻ってきて、ドラムスの前に座り、始めたのは何とディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」である。ベースはドラマーのパット・トーピーが弾いている。そしてギターはミスター・ヴォーカリスト、エリック・マーティンが必至の形相で弾いている。可愛いヤツである。ヴォーカルは、当然ながら、名ベーシスト、ビリー・シーンが少々照れくさそうに歌っている。何とも楽しい演出ではある。途中サビのギターをエリック・マーティンが弾けるのだろうかと疑問に思っていたら、後半は楽器を持ち替え、エリック・マーティンがベース、ビリー・シーンがギター、パット・トーピーがヴォーカルとなって最後まで完奏した。ビリー・シーンのギターといい、ポール・ギルバートのドラムスといい、そこらのプロよりよほど上手い。全く羨ましい限りだ。

その後もザ・フーの「ババ・オライリー」のシンセ部分を、ギターとベースの猛烈な速弾きで再現してみせ、またデイヴ・リー・ロスのストレートなロック・チューン「シャイ・ボーイ」をビシッと決めて締めくくったのである。ヒット曲の大半は演奏し、2時間強のコンサートは、あっという間に終わってしまったという印象だったが、個人的にはデビュー盤に収録されている一番好きな曲「エニシング・フォー・ユー」をやってくれなかったことが、唯一残念でならない。ベスト盤「ネクスト・タイム・アラウンド」にも収録されているのに、よりによって、何故一番好きなこの曲だけオミットされてしまったのやら。まあ、それでも、久々に心から楽しめたコンサートではあった。

MR.BIGは、90年代を通して、多くのバラード・ヒットを生み出し、これ以上はないと言い切れる速弾きのギターとベースが炸裂するハードロック・チューンで、ギター少年たちを完膚なきまでノックアウトしてくれた。ちょいと子どもじみたジャケット写真や、悪ふざけばかりしているステージは、楽しさの象徴である。思うに、バブルがはじけ、失われた10年といわれた時代に、この連中を好きになったことで救われた思いをしたファンは、殊のほか多いのではなかろうか。グランジ以降、重苦しい空気を振り払うこともなしに、無力感に包まれていることが当然のようになった時代に、能天気と言ってもいいほど明るくて、そして時にはちょっと切ないバラードで涙して、この連中が存在することで、現実世界で生きていけるという感覚を維持できた若者は多いと思う。今また景気の悪い局面になって、先行き不透明な時代に、MR.BIGが存在することがどれだけの意味を持ちうるかは想像もつかないが、身近な人であれ、こういったバンドであれ、誰かを好きになるということが精神衛生上、どれだけ大きなプラス面を持っているか、もう少し認識すべきではなかろうか。何はともあれ、落ち込んでいる人には、ぜひとも聴くことをお勧めしたい連中である。


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