先日、面白いCDを入手した。新宿の中古盤店の店頭で売られていた輸入盤なのだが、何でこんなものが流通しているのか疑問に思いつつ、せっかくだからと思い買うことにした。ものは、ポール・マッカートニーの2007年6月のライヴ盤だが、公式リリースでは4曲入りのEP盤のような体裁のものである。ところが手元にあるのは、12曲入りなのだ。ちゃんとMPLからリリースされたものであり、ブートレグではない。あまりにも酷い画質のジャケット写真が海賊盤かと思わせるが、どう見ても正規盤のようだ。疑問符を頭から噴出させながら帰宅して、インターネットでいろいろ調べてみたところ、あった。12曲入り拡大版が存在するのだ。どうやら英国の「The
Mail On Sunday」という新聞のおまけで配られたものだという。何故それが流通しているのかは詳しく知る由もないが、有り難いことに極東の島国で、購読してもいない英国の新聞のおまけが手に入ることの不思議さよ。
そのライヴ盤は、「ライヴ・イン・ロス・アンジェルス − ザ・グラミー・ノミネイテッド・アメーバ・ショー」というタイトルになっている。4曲入りのものは、「アメーバズ・シークレット」といい、2007年6月27日にハリウッドのアメーバ・レコーズという巨大な店舗の中で行われたインストア・ライヴを収録したものだった。それが同年11月に12インチ盤でリリースされたが、当然プレス枚数は少なく、CD化が望まれていたのだが、それがようやく2009年2月になって発売されたものだった。そして今回、2010年1月に新聞のおまけ配布である。12インチ盤は希少価値から高値取引が続いていたようだが、CDがリリースされたことで、多くのファンやコレクターはホッとしたところだったはずだが、一年も経たないうちに12曲入りが出現しては、いたたまれないのではなかろうか?
自分の場合は、とにかく高いと思ったら手を出さないので、コレクターとは言えない。少しでも多くのものを聴きたいというヘンな願望があるために、また限られた給料で生計を立てているサラリーマンであるから、趣味として成り立たせるためには、「高いものには手を出さない」は鉄則なのである。この4曲入りの「アメーバズ・シークレット」も、曲数のわりには(あくまでも曲数のわりには)輸入盤でも1200円前後、国内盤は1500円という言語道断のお値段である。今回の12曲入りは1500円弱、まだ許せるお値段だったのである。新聞のおまけと知って、それでも高いかなという気もしないではなかったが、とりあえず納得できるものではあった。しかし、当日は20曲も演奏したというから、これはそのうちコンプリート盤でも出るのではなかろうか。
とにかく、内容は悪くないのだ。4曲入りの内訳は、当時最新盤だった「追憶の彼方に」から2曲「オンリー・ママ・ノウズ」と「ザット・ワズ・ミー」、ビートルズ・ナンバーの「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」そしてウィングス時代の「C・ムーン」となっている。これだけでグラミーにノミネートされてしまうのだから凄いことではある。もし最新盤から収録された曲が「ダンス・トゥナイト」だったら自分も買ったかもと思わなくもないのだが、とにかく静観するしかない盤であったことは確かだ。しかし、その拡大版は素晴らしい内容だった。その4曲がすべて含まれているとはいえ、半分がビートルズ・ナンバーで、しかも大好きな「ドライヴ・マイ・カー」でスタートし、「バック・イン・ザ・USSR」で大盛り上がり、意外にも「ゲット・バック」などという曲まで演奏しているのである。しかも、MCで知れるのだが、最後の「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」が始まる前には、リンゴ・スターを紹介しているのである。つまりは生き残った2人のビートルが、同じステージに立ったというわけだ。これはやはり、かなり貴重な音源と考えるべきなのだろう。そして、自分の好きな「ダンス・トゥナイト」も、3曲目に演奏している。実に嬉しい内容だったのである。
それにしても、70歳になったばかりのポール・マッカートニーだが、相変わらず精力的に活動してくれることが嬉しい。ローリング・ストーンズのミック・ジャガーのような化け物は別としても、1960年代に活躍したロック・ミュージシャンが次々と鬼籍に入る中、創作意欲を失わずに活動を続けることは容易なことではない。サラリーマンだったら定年退職後に第二の人生などといって、新たな活動を始めたりもする場合もあるが、職人さんのようにずっと同じことを続けてきて、定年もなく、仕事の質が下がることもなく、活動を継続するのは並大抵の精神力では無理である。
昨年11月にリリースされた「グッド・イヴニング・ニュー・ヨーク・シティ」は、ニュー・ヨークのシティ・フィールドで行った2009年7月の全33曲を収録したライヴ盤である。この盤もいろいろなパッケージでリリースされたことが笑えなくもないが、誰が何と言おうと、元気で活動を続けてくれることが一番だ。ここでは、とりわけビートルズ・ナンバーを20曲も演奏していることが嬉しい。これを前向きでなくなったと評することは勝手だが、ポール・マッカートニー本人の声で歌われるビートルズ・ナンバーの数々が、多くの人々、とりわけ1960年代に青春時代を過ごしてきた年代の人々にとって、生きる希望を与えるほどの価値があることを忘れてはならない。この盤の後半は、ウィングス時代の名曲、007のテーマだった「リヴ・アンド・レット・ダイ」を除けば、ビートルズ・ナンバー一色なのだが、この期に及んで終盤の「ヘルター・スケルター」〜「ゲット・バック」〜「サージェント・ペッパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」〜「ジ・エンド」と続くアッパーな曲でのシャウトが圧巻なのである。聴くほうも体調を整えてからと構えるほどだ。
まもなく50歳になる自分は、最近めっきりと集中力が落ちてきた。この年齢になって初めて分かることだが、クリエイティヴなスタジオ・ワークも、パワフルなライヴ・パフォーマンスも、ポール・マッカートニーのようにはとてもできることではない。彼は個人名義では2007年の「追憶の彼方に」がスタジオ作としては最新盤となるが、2008年には実験的ユニット、ファイヤーマンでも「エレクトリック・アーギュメンツ」をリリースしている。この盤は、過去の2作と違って、ポールの新作と言っても問題ないような、素晴らしいメロディが随所に散りばめられた盤である。こういったスタジオ作をコンスタンスにリリースしてくれるからこそ、小出しにされても、ライヴ盤も買って聴こうという気にもなるのだ。確かに曲の出来に関してはムラもある人間だが、ここ数年は再び充実期に入っているようだ。スタジオ作での曲がよいからこそ、ライヴでも聴きたくなるのだ。新盤で気に入った曲があり、それをライヴでやってくれる、その他の曲はビートルズやウィングスの名曲ばかり、こんな嬉しいことは他ではあり得ない。