洋楽を聴き始めて約40年が経つ。子どもの頃はがんばって小遣いを貯めて、年に数枚のレコードを買うのがやっとだったが、社会人になってからは月に数枚程度となり、ここ十数年は月40枚程度のCDやLPを買うという状況である。ろくに整理もせず、買っては聴きまくり、気に入らなければその辺に放っておくような状態で、つれあいには本当に迷惑をかけていると思う。一定の数量になると、自分の記憶力だけでは当然管理し切れなくなり、消費税の増税と同時にWindows95のPCを購入し、データベースも作り始めた。データベースがあってもまだダブって購入するものがあったりして我ながら情けなくなるが、整理するにもどこから手をつけてよいか判断がつかず、ついつい先延ばしにしていた。それが先日、ついに整理にとりかかるきっかけを得たのである。
そのきっかけというのは、所有しているおさらが一万枚を突破したのである。このままではエンドレスになるぞと思ってはいたので、1万枚にでも達したら整理に入るさといった程度で、自分の中で決めていたことなのだが、やはりマンション住まいの個人が所有するおさらの限界ではないかとさえ思う枚数である。LPは普段のライフスタイルからしてあまり用がない和室に集めてある。壁面を覆い尽くしているので、重みのせいか、部屋の真ん中あたりの畳が持ち上がってきてしまった。CDはベッドルームとリヴィングルームに分散して置いてあるのだが、これも多くはソフトケースに入れ替え、空間の有効活用に最大限努力して、ようやく収まっている状況である。いや収まっているとは言えない。リヴィングにあるPCデスクの周辺には常に100枚程度のCDの山があり、ときどき崩れて猫を驚かせている。
データベースの入力は続けているものの、なかなか追いつかない。最近はインターネット上の情報が充実してきて、個人でデータベースを作って管理することの意味合いが薄れてきていることもあり、あまり身が入らないのである。そして、年齢のせいにばかりしているが、いっそう物忘れがひどくなり、データベースの有無にかかわらず、相変わらずダブって買ってしまう。家計とは別に自由になる金はすべて注ぎ込んでいる状況で、老後のことなどまったく考えないのは今も同じだが、この状況には、さすがにまずいだろうという気にもなる。これまでも何度かあったのだが、無性に整理したくなってしまい、発作的に最近購入して気に入らなかったCDを120枚ほどまとめて処分したのである。本当は何を売り払ったかをきちんとデータベースに反映しておかないと混乱の原因になってしまうのだが、なかなか入力などする気にもならず、とにかく売り払ったのである。
整理を思い立ったきっかけは、もう一つある。iPodとリンクさせるPC側のソフトウェア、iTunesにはどの曲を何回聴いたかという再生回数を記録している機能がある。最近ふと気が付いたのだが、結局のところ、自分が聴くものは意外なほど限られているのである。つまり日によって気分がかわり、微妙に違ったものが聴きたくなるとはいえ、かなり限られたものを繰り返し聴いているのである。大半のものは、再生回数がゼロなのだ。この再生回数の状況を見て、自分に少々嫌気がさしたのである。どのみち物欲まみれであることに違いはないのだが、何も聴く気にならないものまで持っている必要はないという、当たり前の結論に達したのだ。
そして、そう思わせるに至った、つまり直接の原因になったミュージシャンもいることはいる。タイミングや相性が悪かったというだけで、悪く言うつもりはないのだが、あえて書くと、それはジェシー・ハリスなのである。ノラ・ジョーンズの「ドント・ノウ・ホワイ」を書いたグレート・コンポーザーである。この曲からスタートして、様々な人脈を辿り、多くの愛聴盤にもめぐり合えたので感謝すらしている人物である。しかし、彼の2007年のアルバム「フィール」がそれまでの数枚のアルバムと同じようには、どうしても楽しめなかったのだ。つまり、3年も整理がしたくて悶々としていたことになるのだ。それまでのアルバムには、必ず大好きな曲が数曲あり、繰り返し、繰り返し聴いたものだ。それがこのアルバムは予約注文してまで発売日に入手したにも関わらず、一度聴いたきり、これはいかんとなってしまったのだ。その後何度も来日しており、人気も定着しているのだが、どうしても聴く気になれず、他の大好きだったアルバムも聴かなくなってしまったのである。
結局その後、ジャズもほとんど聴かなくなり、最近は子どもの頃に聴きまくった、ヒット・チャートを賑わせていた古いポップスやビートルズ関連の音源ばかり聴いている。実は、その前にも、似たようなことはあった。ミレニアムの頃はキング・クリムゾンばかり聴いていたはずだが、最近は全く聴いていない。こちらはそれなりに分かっていただけるのではなかろうか。キング・クリムゾンを聴き続けるには本当に体力が要るのである。どうしても高度なテクニックを追いながら聴くことになるので、集中力も要求される。あのバンドは疲れるのだ。ライヴ音源のリリースがひと段落したところで、自然と遠のいてしまった。時々は聴いたりもするのだが、そういうときに聴くものは極々限られた曲となるから、結局大半は聴いてないことになってしまうのである。
そうは言っても、キング・クリムゾンもジェシー・ハリスも決して嫌いになったわけではなく、今は聴く気になれないというだけなのだ。それでも、そのために大量のCDやLPを家の中に置いておくことは気が引ける。そんなわけで、どうしても手元に置いておきたいもの以外は、iTunes
に取り込んでから売り払ってしまうかと考えている始末なのである。ついでだから、スリーヴはスキャンしてデータ化しておくかなどという考えも頭をもたげてしまうのだが、これはなかなか面倒で、あまり気が乗らない。そうなると、忙しさにかまけて、少し様子を見るかなどと先延ばししてしまうのである。まあ、少しずつ処分するしかない。
それでも、CDの整理やデータベースの入力などをしながら、あれやこれや考えていると楽しいい、気分が変わることは確かだ。少し整理がついたなと思える日は、嬉しいだけでなく少し前向きに物事が考えられるようになる気がしている。地球温暖化の影響は歴然としているが、妙に温かい冬の終わりが見えてきて、春を感じ始める季節は、誰でも気分が上向くものだろう。本来なら、ジェシー・ハリスはこんな季節に合うものの代表なのだが、なかなか聴く気になれないのが残念でならない。