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下町音楽夜話

◆第408曲◆ ミック・テイラーは現状に満足しているのか?


2010.4.17

ちょうど一年前、2009年の4月21日、ミック・テイラーのライヴを六本木で観た。マックス・ミドルトンやクマ原田の渋いバックアップとともに、全く衰えることのない素晴らしいギターを披露してくれたものだ。あまりに現役感バリバリの演奏に、信じられないような気がした。その10年前、1999年の10月23日にも、渋谷のクラブ・クアトロでミック・テイラーを観ているのだが、そのときもあまりに濃密な演奏に聴き惚れ、あっと言う間にライヴが終わってしまったように記憶している。どうしてこんなに素晴らしいミュージシャンが小さなハコでしかやらないのか、不思議でならない。勿論聴く側としても、その方が嬉しいのだが、もっと騒がれてもいいはずの人間だ。何せ全盛期のローリング・ストーンズを支えた、ロック史に名を残す名ギタリストではないか。

先般、2009年のライヴの模様が、DVDになって発売された。「ニュー・モーニング − ザ・トーキョー・コンサート」というタイトルで、昨年の5月に収録されたことになっているが、これは間違いなく4月21日の映像だ。何せ客席にいる自分とつれあいが何度も映っているのだ。さすがに自分たちの顔は間違いようがない。当日のあの様子であれば、そうとう頻繁にライヴはやっているのであろう。それでも、こうやって公式にリリースするくらいなのだから、本人にとってもあの日の演奏は頗る出来がよかったと考えるべきなのだろうか。「ユー・シュック・ミー」や「ブラインド・ウィリー・マクテル」といったコテコテのブルーズを、随分あっさり演奏していたように感じていたが、映像で観かえすと、やはり素晴らしく粘っこいギターを聴かせている。大好きなレス・ポールをダイレクトにアンプに繋いでいたが、あれほど艶やかでグイグイと心に染み入ってくる音は簡単に出せるものではない。やはり滅多に聴けるものではない素晴らしい瞬間に居合わせたということなのだろう。

さて、まもなく楽しみにしているアルバムがリリースされる。ローリング・ストーンズの「メイン・ストリートのならず者」のデラックス・エディションだ。スーパー・デラックス・エディションとかいう2SHM-CD + 2LP + 1DVD仕様のボックスもリリースされるようだが、さすがに18,000円も出す気はしない。自分はCD2枚組のデラックス・エディションを注文した。これでも10曲ものボーナス・トラックが追加収録されているのだ。数年前から出るぞ、出るぞという噂が流れていたもので、相当しっかりと準備していたようだ。ストーンズ・ファンとしては、「ゲット・ヤー・ヤー・ヤズ・アウト」のデラックス・エディションや映画「ギミー・シェルター」のデジタル・リマスター版といった、嬉しいリリースが続いているだけに、期待しないわけにはいかない。ここのところの再発ものは、いずれも愛情の感じられる仕事が嬉しい素晴らしいものばかりなのだ。しかし、スーパー・デラックスは少々やり過ぎではなかろうか。

とにかく、ミック・テイラーが在籍していた時期のストーンズの音源は、いずれも聴き逃し厳禁の素晴らしいものばかりである。スタジオものもライヴも、全てが素晴らしい。最近は、若い連中を中心にキース・リチャーズの演奏に対する再評価が高まっているようだが、誰が何と言おうと、この時期のミック・テイラーなくして、モンスター級のバンドにのし上がった現在のローリング・ストーンズは存在しえなかったであろう。いまだにライヴでも定番となっている名曲群が量産された時期でもあるし、アルバムはいずれも名盤ばかりである。「スティッキー・フィンガーズ」「メイン・ストリートのならず者」「山羊の頭のスープ」「イッツ・オンリー・ロックン・ロール」の4作と、ライヴ盤「ゲット・ヤー・ヤー・ヤズ・アウト」である。まさに絶頂期である。時期的には1969年から1974年である。ロックが最も熱かった時代、と言っても過言ではあるまい。ミック・テイラーはそのど真ん中にいたというわけだ。

ミック・テイラーがギターを弾いているのであれば、何でも聴いてみたい。それほど、このギタリストが好きだ。1979年のファースト・ソロ「ミック・テイラー」も、そしてその20年後にリリースされたセカンド・アルバム「ア・ストーンズ・スロー」も大好きなアルバムだ。結局のところ、バカ騒ぎがあまり得意ではない真面目な性格のミック・テイラーが、ローリング・ストーンズに解け込めるわけがないのだ。そういった意味では、酔いどれバンドのフェイセズから移籍したロン・ウッドのほうに軍配が上がるのだろう。確かにロン・ウッドはローリング・ストーンズにピッタリの人材だと思う。「ミック・テイラー」の地味なジャケットが全てを物語っている。そっとしておいてくれ、と言っているかのようなそのジャケットと、アルバムの最後を飾る「スパニッシュ/Aマイナー」は、あまりにイメージがぴったりで、納得せざるを得ない。こういった内省的で地味ながらも素晴らしいアルバムを作れる人間が、ストーンズにいたことがそもそもおかしいのだ。それでも、そのおかげで歴史的な名盤が生まれたのだから、世の中は皮肉なものだ。

ただ気になるのは、何故ミック・テイラーほどのギタリストが、小さなハコでしかライヴをやらないのか、何故もっと評価されないのかといったあたりだ。本人が満足していれば、他人の評価など別段問題ではないのかもしれない。しかし、このギタリストは、もっと、もっと評価されて然るべき人間なのだ。周辺の人間もそのことが分かっているはずなのに、どうして現状を受け入れているのだろうか。マーチン・スコセッシが作ったローリング・ストーンズのライヴ演奏を記録した映画「シャイン・ア・ライト」が大ヒットしたが、「シャイン・ア・ライト」は「メイン・ストリートのならず者」の終盤に収録されたバラードであり、ミック・テイラーのリード・ギターとビリー・プレストンのピアノが印象的な曲である。忘れられていた名曲と言われるこの曲をタイトルに持ってきた理由が知りたいものだ。これまで、ライヴでもさほどやっていないはずなのに、何故2008年にもなって、この曲が再注目されるのか。そして、この曲を語るとき、どうしてミック・テイラーの名前は一切出てこないのだろうか?また、そのことに違和感を覚えるのは自分だけなのだろうか。

ストーンズ脱退後のミック・テイラーは、ジャック・ブルースやカーラ・ブレイと一緒にライヴ活動を行ったり、ボブ・ディランのツアーに参加したり、いろいろと忙しく活動している。そしてソロとなれば、やはりブルーズに戻ってくるといったところが微笑ましい。結局のところ、このギタリストはブルーズが演奏できれば満足なのだろう。エリック・クラプトンやローリング・ストーンズがスタジアムを埋め尽くして、よろしくやっている一方で、小さなハコで渋い、そしてはるかに聴く価値のあるブルーズを決めているこの男に惹かれることは、あえて説明するまでもあるまい。


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