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下町音楽夜話

◆第415曲◆ タイムレス


2010.6.5

鳩山首相が退陣を表明した。小沢幹事長も辞任するという。昨年の政権交代は国民の総意だったと言っても過言ではないほど、当初は支持率も高かったはずなのに、一年もたなかったことになる。意外なほど短命に終わった原因がどこにあるのかは、今後さまざまなメディアで取り上げられるだろうが、どのみちあんなに八方美人的な態度では行き詰るだろうと思ったし、優柔不断といった印象も決して外れてはいなかったろうから、当然の帰結といった気もする。結局、あれこれ制度をひっかきまわし、事業仕分けなどといったパフォーマンスをやらかしたところで、ろくな成果は上げられなかったのだから、期待はずれ以外の何ものでもない。菅さんに交代したところで、どれだけの成果が上げられるやら、期待する気にもならない。

近い時期に政権交代を実現し、国民の大き過ぎる期待とともに支持率低下に悩まされることが宿命づけられていたとも言えるオバマ大統領と鳩山さんだが、リーマン・ショック以降の両国の経済状況は惨憺たるものといった印象だが、いろいろな部分でかなり持ち直したようにも思える。マス・メディアを通じて知れる海外の状況は、特別なことが起こったときは集中的に報道するが、平常時は何も報じてくれないので、刑期が悪いといった印象ばかりを植え付けられてしまう。そういったことを差し引いて考えても、EUの前途は多難なように思うが、日本は比較的に安定しているのではと思ってしまう。個人的な視点からは、結局消費経済に関する部分しか実感できないが、グローバルな市場経済は、どうしてもメディアのフィルターを通ってしまうので、実感として分かるものがない。しかし、元気な企業はいくつもあるし、そういったものが牽引して景気は上向いていくのだろうから、もう少し景気のいい話をメディアが取り上げてくれれば、それで十分という気もするのだが、いかがなものだろうか。

例えば、米ナスダック市場に上場しているアップルは、時価総額でマイクロソフトを抜いたという。iPodやiPhoneといったヒット商品が続いている上に、iPadもヒットして当然とも言える出来のよさだけに、IT業界の勢力図はすっかり書き換えられてしまったようだ。もちろんマッキントッシュのPCに関する情報はあまり耳にしなくなったので、持てるリソースをiPodやiPadに集中しているのだろう。iPodやiPad関連の商品を作っている企業やパーツのメーカーなどは、頑張っているのだろうか?Windows系のパーツから乗り換えただけなのだろうか?それでも、景気が上向くきっかけは、意外に身近なところに転がっているものなのではなかろうか?

また自動車業界などは、GMの破綻以降も、トヨタのリコール対応の遅れなどを議会で糾弾していたが、制度的に締め付ければ悲鳴をあげるのはデトロイトということになりそうで、勝ち組トヨタの位置づけは変わりそうもない。低燃費技術で新製品を次々リリースしてくるのはドイツ組だったりするわけで、デトロイトの厳しい状況は、さらに深刻さを増すだけなのだろうか。一方で魅力的なデザインのクルマを立て続けにリリースしてくるのはフランスだったりもする。消費しない若者の財布のひもを緩めるには、これまでと同じことをやっていても上手くいくわけがない。環境性能ばかりでも能がないとは思うが、低燃費志向は強いだろうから、そういう売り方しかできないのだろうか?まったく、夢のない世の中になってしまった。

強いアメリカに憧れながら育った自分のような人間は、現在の社会情勢は何とも複雑な心境にならざるを得ない。格差社会という目をそらすべきではない現実も、結局程度の問題なのだろうか。それほど貧しいとは思えない日本では、相変わらず年間3万人以上が自殺する。闇の部分に目が届いていないだけと言われればそれまでだが、ことアメリカと比較する上で言えば、アメリカの貧困層も相当の状況というし、本当の豊かさとは何か、真剣に考えるべき時期にきているのかもしれない。物質的な豊かさに加えて、精神的な豊かさも重要だとは思うが、物質的に豊かでない状況で、そうそう精神的な豊かさを実感することは難しいだろう。

相変わらずアメリカのルーツ系の音楽を聴きあさっているのだが、ルイジアナを中心とした南部の音楽には、不思議と心の豊かさを感じさせるものが多い。大都市で世界の最先端を競っているような厳しさがない分、当然ともいえるが、ニュー・オリンズあたりで「自分たちにできることはこれだけ」といったスタンスで、のんびりやっている音楽は、ことのほか心地よく響くものでもある。今年の1月に71年の生涯を閉じたボビー・チャールズの生前最後の録音となった音源が、「タイムレス」としてリリースされた。このアルバムも、実に心の豊かさを感じさせるものだった。

最近はケイジャン・ミュージックの超絶ギタリスト、ソニー・ランドレスが全面的にバックアップしていたので、のんびりムードのボビー・チャールズのメロディに絡むスライド・ギターが堪能できるアルバムとしても楽しめるものだった。「タイムレス」も同様で、「ハッピー・バースデー・ファッツ・ドミノ」や「オールド・メキシコ」といった和やかな曲が、現実を忘れさせてくれるほど、リラックスさせてくれる。本来音楽が担うべき役割はこういった部分にあったのでは、と思いたくなるほど、日常生活に疲れた心に働きかけてくる。「癒される」という言葉はあまり好きではないが、硬くなっていた心がほぐれてくるのが分かるのである。

2005年8月にアメリカ南部を襲ったハリケーン・カトリーナで壊滅的な打撃をうけたニュー・オリンズもかなり復興したようだが、今度はメキシコ湾で起きた油田の爆発事故による原油の漂着が、この地域の自然環境や生態系に大きな影響を与えているという。オバマのカトリーナと言われ始めているこの事故の影響は、日本ではあまり報じられていないが、非常に大きなもののようだ。国内の政治のバタバタに大きなスペースを割く日本のメディアでは知りようもないことだが、インターネットで海外のメディアにアクセスすると、驚くほど原油流出事故に関する報道が大きい。オバマ大統領には、ぜひとも頑張って、一部を除く世界中が注視している南部の自然環境を破壊しかねないこの事故の確実な対処をお願いしたいものだ。前任者のせいもあって、最初の期待が大きかっただけに、支持率の低下は致し方ないのかも知れないが、間違っても途中で放り出すような無責任なことだけはしないでほしい。持続可能な社会を目指すには、タイムレスな取り組みが必要なのだから。


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