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下町音楽夜話

◆第420曲◆ 夏フェス恨めしや


2010.7.10

ここ数年、夏がやってくると思い出すというか、気になりだす連中がいる。ソイル&ピンプ・セッションズというグループをご存知だろうか?爆音ジャズだのデス・ジャズなどと呼ばれているようで、既存のジャズと比較するとかなりアウトな存在ではあるが、それほどロック寄りな音をしているわけでもない。夏フェス向けのジャズ・バンドといった趣向の連中である。なかなかしっかりした演奏技術と、新しいことをやろうとする意識は強いようだ。コンスタンスにアルバムをリリースしているが、いずれも聴いていて楽しくなる盤である。すべてを聴いているわけではないが、夏になると、「ライヴやってないかな?」と思い出してしまうのである。

2008年にリリースされたアルバム「プラネット・ピンプ」に「ミンガスファンクラブ」という1分強の曲が収録されている。この間奏曲のようなもので評価されたくはないだろうが、一聴はじけているようで結構大人しく、既成の枠を意識してしまったような曲の中で、最も彼ららしさを感じさせる一曲なのである。せっかくならもっとはじけた方がいいのになと思う気持ちは強い。アルバムで聴くからだということは想像できるのだが、その反面ライヴは相当に楽しそうだなとも思わせてくれるのである。

「みどりん」こと緑川直人が叩き出すドラムスがこのグループの個性をかなりの割合で下支えしている。ロック寄りのリズムであり、明らかにジャズ・ドラマーではない。しかし、ポリリズミックなフレーズを多用し、コンピュータ・リズムを想起させる単調な繰り返しと収まりのよいブレイクが、新しさを感じさせる。いかにも新世代ジャズといったことを意識させるリズムである。また、キーボードの佐藤丈青も、相当の実力者だ。あまり前面には出ないが、ポップに堕しないスノッブさを持ち合わせており、グループ全体のレベルを引き上げているように感じられる。グループの個性という点では、アジテーターという存在の「社長」こと久嶋識史の存在も大きいのだろうが、彼の存在は一歩間違えると色物的な匂いが強くなってしまうので、演奏でアウトな感覚を推し進めたほうがよかろうに。秋田ゴールドマンのウッドベースも、アタックが強い上に推進力もかなりのものである。フロントの2管もなかなか上手いし、突き刺さる格好良いフレーズも相当に研究しているようだ。なかなか腕達者な連中の集まりなのである。

彼らの現代感覚の面白いところは、型にはまらない部分がフリー・ジャズの方向に行かず、メイン・ストリームから外れた感性というかたちで、音的に完結できているところだ。ジャズという新しくはない音楽をベースにしながら、これだけ新しい感覚を打ち出すことができるのは、若さという要素もあるだろうし、貪欲な吸収力・消化力でクラブ・シーンのいいとこどりを実現している耳のよさもあるだろう。色物に堕しないギリギリの線という意味では、まだまだ余裕があるが、近藤等則などがずっと昔にやっていたアジテーション的な部分は新しさを感じさせないマイナス要因である。演奏が上手いだけに、ライヴで決まれば格好良いのだろうが、繰り返し聴くパッケージ・メディアに収める部分には、もう少し工夫が必要なように感じてしまうのだ。そういう意味からもライヴに期待してしまうのは致し方ないのである。

すっかり年をとってしまって、さすがに夏フェスなどには魅力を感じなくなったということにしている。毎年ロックもジャズも楽しげなフェスティバルが開催される日本という国は、本当に音楽好きにとって天国のような国だ。その中でも、東京JAZZだけは、運営の拙さが毎度気になってしまい、毎年毎年素晴らしいメンツが出演するわりには高く評価できない代表だ。今年もチケットは入手しているのだが、期待しすぎないようにしようと今から自制心を働かせている。正直なところ、プロデューサーとして名を貸しているハービー・ハンコックの印象までもが、悪くなってしまっているというのが正直なところだ。

最近のハービー・ハンコックは、音楽的には素晴らしい領域にまで上り詰めているようだが、アルバムとしてリリースしてくるものは、いずれも企画先行型で、どことなく胡散臭いものを感じてしまう。超豪華なゲスト陣もかえってアルバムの統一感を失わせる要因のように思えていけない。先日発売された最新盤「イマジン・プロジェクト」も素晴らしい内容のわりには、決して高く評価する気になれない一枚だ。「イマジン」など、何ゆえインディア・アリーやシールをヴォーカルに据え、ジェフ・ベックにギターを弾かせて、この程度なのだろう。このメンバーなら、もっと素晴らしい曲が出来上がってもいいはずなのに、素材を生かしきれていない不満ばかりが募ってしまう。決してライヴを期待したくなるようなものではない。

どうしてもジャズは演奏力に期待してしまう。そこに加えて、オーディオ趣味的な楽しさが加われば、文句なしなのだが、企画先行型のアルバムはどうしてもそういったジャズ本来の魅力を殺いでしまう側面があるように思えてならない。そういう意味では、ソイル&ピンプ・セッションズは、存在そのものが企画ものっぽい下世話さを感じさせておきながら、いざ音を出してみると、正統派をも黙らせてしまう上手さがある。オーディオ的にも相当のレベルで録音されていると思われる。なかなか侮れない連中なのである。願わくはもう少しメジャーになって、都心のホールなどで定期的にライヴをやってくれるようになって欲しいものである。彼らの場合、アルバムのメジャー・リリース前にFUJI ROCKに出演したり、知名度の割には2006年にモントルー・ジャズ・フェスティバルに出演したりもしている。この時点で名刺代わりの一曲があればよかったのだが、果たして観客のウケはどうだったのだろうか?

夏フェスは、ニュー・カマーを多くの音楽好きに知らしめる絶好の機会でもある。当然ながら今年も、いろいろなフェスティバルが開催され、多くの若手が浮力を与えてもらえるというシーンが見られるのだろう。一方で大御所にとっては、実力のある連中の後にトリを務めるなどといった緊張を強いられるシチュエーションも展開される。貫禄が示せればよいが、ヘタをすると観客の退場のBGMになってしまうおそれもある。中堅どころが存在感を示すには、かなり気合を入れなければ・・・。観客にとって、夏フェスはそれなりに面白かろうが、やる方は結構大変なんだろうということも意識しておいたほうがよいだろう。野外は絶対に行かないと宣言しているが、毎度毎度気になるラインナップで煽ってくれる夏フェスが恨めしくて仕方がない。


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