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第20回
「復讐総会」

著者江上剛
価格1600円
出版新潮社
発行年2004年

 総会というと学生時代を思い出す。大学二年のときに学生総会を混乱させて正門前のタテ看板に名指しで批判された。総会では議長団と対峙するように最前列に座り、やや後方に少林寺拳法部のメンバーを置く。事前に、相手方のあらゆる情報は入手しておき、多数派工作も終了させておく。言うなれば総会屋の真似事だった。

 今回紹介する作品の作者はみずほ銀行に昨年の3月まで勤務していた。
だから内容は示唆に富む。総会屋とのやり取り、中小企業に対する貸し剥がし、労災認定など、内部を知りえた者にしか書くことはできない。
物語は五編の短編からなっていて、元総会屋の勇次が主人公。

 はじめの作品の「復讐総会」では自殺した勇次の娘が勤めていた食品会社が舞台だ。
その会社に株主提案権を行使して、自社株を取得させて大幅な株価上昇を狙う投資ファンドの経営者が乗り込んでくる。そして、その経営者はどうやら自殺した娘に関わりがあるらしい。
株主提案権を行使する株数を取得するには 数億円が必要だ。それほどの資金はどこから出ているのか。また経営陣を揺さぶるだけの材料は?
刻一刻と迫る株主総会。会社の存在を揺さぶる重大事実が明るみに出て、両者の対決は如何にという感じで物語は展開する。
 
 「なぜ株主総会が重い意味を持つかと言えば、利益処分案、役員報酬案、退職金、取締役就任など、会社存続のための重要なことは、全て株主総会で決めなくてはならないからです。これについては色々と改正すべきだとの意見があるようですが、経営者に好き勝手にやらせるわけにはいかない。それこそ株主のためにならない」
勇次の講釈は正論だ。多くの企業が総会の開催日を統一して、1時間足らずで終了するのを常としている。もちろん何時間も議長席で立ちっぱなしで答弁する社長もいるが、少数派だ。
 物語は娘の遺品の手帳にあった投資ファンドと暴力団の関係が総会で暴露されて終わる。
株主の代表とは名ばかりで、ヤクザの資金を株に変えてキレイなお金にしていたのだ。

 以前メガバンクが誕生したときに、オンラインシステムがダウンして頭取が国会に参考人として招致されたことがある。三つの銀行のコンピュータシステムがそれぞれに異なっていたので、起こるべくして起きたといわれた。
この作品にもそれにまつわる話が出てくる。システム担当の社員が過労死したが、銀行は労災認定しない。なぜか。銀行にとって不名誉なことだから認められないというのだ。
仕事の途上で死ぬことがどうして不名誉なのか。勇次でなくても銀行に対して怒りたくなる。勇次の友達の元刑事が言う。
「お前がどんなに酷い奴だったとしても、いい仕事をしたとか、いい上司だったとか、ありがとうとか桜田門なら慰めの言葉の一つもかけてくれるぜ。それが人間ってものだ。仲間の死を迷惑とばかりにさっさっと処理しようとするなんざ、人に道を外れている。そうは思わないか」

 証言を集めるために、かっての夫の同僚の社宅を訪ねる場面がある。社宅だから誰かに見られたら大変とばかりに、早く入ってくれと言われる。社宅も昔の隣組と同じではないか。ちなみに本田技研には社宅はない。家に帰ってからも監視されるのでは社員がかわいそうだという本田宗一郎の意思による。
その同僚も会社が手を回していて証言してくれそうにない。
「勘弁して下さい。協力したら、銀行からは面倒を見て貰えなくなります」
社畜にならざるを得ない現実がある。
しかし、この同僚が株主総会で発言する。
「死んだ後もきっちりと家族を守ってくれる銀行だと行員が信頼すれば、更に意欲的に働き、業績も向上するに違いありません。今日、企業と働く者との絆が切れつつあるように感じられます。リストラ、収益向上、課題は多くありますが、厳しい時代だからこそこの絆が大切ではないでしょうか」
銀行を政治、行員を国民と言い換えても良いのではないか。

 この本を読んで感銘を受けた箇所がある。先の過労死した夫の妻の言葉だ。
「夫は、銀行は工場だとよく申しておりました。大量の事務を処理し、多くの人に高度でかつ均質のサービスを安定的に提供しなければならない義務がある。それが銀行の信頼になっている。それはまさにメーカーの工場の役割そのものだ。一部のエリートプレーヤー
だけが銀行のプレーヤーじゃない。モラルの高い工場労働者が銀行の真のプレーヤーなのだと常に申しておりました」

銀行の一番の稼ぎ手は貸し付け係りだと読んだことがある。得意先係や窓口は収益にはならないという訳だ。だからこの発言が新鮮に感じられたし、感動した。
作者こそは真のバンカーではないだろうか。

2004/5/18