- 最近はいつ戦争が勃発してもおかしくない国際情勢なのに、緊迫した空気はNHKのニュースぐらいからしか感じない。民放各社のニュースはどの程度の情報を伝えているのか、観たことが無いのでよくわからないため、こういう書き方になってしまうのだが、別に北朝鮮の拉致問題や核開発問題についても、イラクの核開発疑惑にしても、特別に興味をもって見守っているわけではない。ただ日本という国が島国で、しかも格別に平和を享受しているということが有り難いことだということは常々感じている。また、国際法的な視点から憲法訴訟を取り扱いアメリカ法との比較を専門としていた自分にとって、国際情勢が気にならない訳はないのだが、しかしそれは平時の国際関係であって、戦時を含む緊張状態の国際関係に関しては、全く違った考え方を持たなければ自分を納得させることすらできない。また、歴史的な事実を抜きにして、現在の関係だけで、物事を語ることはできないはずなのに、短絡的に北朝鮮が悪い、イラクが悪いと言い切ってしまうことの怖さも認識しているつもりではある。ただ日本にいて、のほほんと平和に暮らしている人間に、何か説得力のある説明ができるかというとできそうもないので、あえて発言したくないだけだ。
- ポール・マッカートニーは、2001年9月11日のアメリカに対するテロ攻撃を受けて、「フリーダム」と叫んでいる。多くのアメリカやイギリスのミュージシャンはウィー・ラヴ・アメリカ的なメッセージを発したのに、よくよく考えてみると、ここで自由であることの重要さを説くことがどういう意味があるのか、ちょっと考えてしまった。結局憎しみが憎しみを生むことは、少し考えれば理解できる。多分考えなくても、本能的にそうなる。許すことが大事というような、宗教的な考察ではなくて、ここで「自由が大事、自由について語ろう」と発信することが意味するものは何なのか、そこをはっきりさせておきたいだけだ。「アメリカは自由の象徴であって、そのアメリカに対する攻撃が、すなわち自由に対する攻撃であるから、アフガンを空爆する。」というのは正当な理論だろうか。アフガンの貧しい人々には全く理解できない話だろう。日本国政府は緊急時には、何とも恥ずかしい対応しかできないという共通認識もあるが、それでも日本は1945年以降、国際的な戦争に巻き込まれていない、形ばかりの平和主義国よりもはるかに平和な国だ。我々のように不景気だ何だと叫んでも、結局おいしい食事と安心して眠れる平和が確保されている状況では、どのみち説得力のある意見にはならないではないか。
- しかし、ポール・マッカートニーが叫んだことは絶対的に正しいのだ。平和は正義と同義ではない。アメリカが正義とイコールでないことも事実だ。平和を守るために戦争をするなんて、暴力の悪循環を生むだけで愚かしいことだ。ニュー・ヨークをはじめとした同時多発テロの後、アフガンを舞台に国際的な緊張が高まる中、バーバラ・リーというカリフォルニア州選出の女性下院議員は、アメリカ合衆国議会内でただ一人戦争反対を唱えた。ブッシュ大統領が望んだ、上下両院の満場一致を阻止したことには大きな意味がある。この発言ができる自由こそが、本当に大事なのだ。アメリカがとる政策は嫌いなことが多いが、この自由があることは素晴らしいことだと思うし、羨ましく思う。ポール・マッカートニーは実に思慮深い人間なのか、と思った次第である。
- そもそも自分は、暴力に訴えて主張を通そうとすることは嫌いなので、のらりくらり政策の日本は実に我が母国だなとも思う。評価すべきところは評価するが、海外に出ると時々恥ずかしい思いをすることも、絶対に否定できない事実である。加えて特に若い人たちには、この辺に関する自分なりの考え方はしっかりと持っておいて欲しいと思う。東京下町の音楽に関するエッセイで、平和や自由を唱えてどうなる訳ではないことは十分承知している。ただ音楽はそういったパワーも持っているし、我々は特別に恵まれているから、そういった音楽をも楽しむことが許されているのだ、とも思う。そして、たかが音楽、されど影響力はヘタな演説よりも、ある。絶対にある。ボブ・マーリーは凶弾に倒れた。まだ東西が冷戦状態にあった当時、東側では多くのミュージシャンが弾圧された。我々は戦争を知らない世代だが、世界的に見ても稀な存在なのだ。その自覚だけは持つべきだ。
- 自分の考え方を押し付けるつもりもないし、自由や平和が重要だということをあらためて説くつもりもない。自分の意識を確認するためだけに、今回はこのエッセイを書いている。平和で自由な現状があるからこそ、下町を愛し、下町で楽しく暮らし、下町の良さを皆で共有しようとしているだけなのだ。日本では、こういった問題はすぐに忘れられる。まさに平和ボケ状態だ。拉致も核開発も同じ地球上で起きている事実だし、たまには目を向けてみるのも悪くはない(本当はそういう問題じゃないのだが)。寒さのあまりに不機嫌になると、音楽を聴いていても、こういったことしか頭に浮かんでこない自分が悲しい。平和な国で自由を謳歌する、下町のおやじの戯言である。
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