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下町音楽夜話

◆第291曲◆ やっぱり、ライヴ

2008.1.19
昔からライヴ盤が大好きだった。そこには、ある瞬間を切り取った刹那的な魅力と、真剣勝負をしているようなミュージシャンの緊張感が伝わってきて、少々音が悪くとも、演奏が完全でなくとも、完成度が高いスタジオ録音にはない魅力を感じていた。高校に進学してからは、生でコンサートを体験してしまった上に、自分自身がバンド活動を始めたこともあり、一層ライヴというものに魅力を感じるようになった。上手くパッケージングされたライヴ盤の魅力は、生のライヴとも違う魅力があると思っている。しかし、やはりライヴは可能な限り観ておきたいというのは、本音の部分である。その時間にその場所にいなければできない体験は、何ものにも代えがたい。

昨年から、諸般の事情により、どうしても観ておきたいものを除いて、ライヴに足を運ぶことは控えている。それでも、どうしても観ておきたいものが出てきてしまう。今年は、まずスザンヌ・ヴェガの来日公演が一発目だ。東京国際フォーラムのホールCで開催されるコンサートは、普段から注目しているのだが、好きなミュージシャンのものはなかなかない。それが、スザンヌ・ヴェガのような大好きなミュージシャンとなれば、行かないわけにはいかないという気分になっている。ん人気が出てしまったら、大きなホールでしか観れなくなってしまうのは仕方ないと思わなくもないが、アコースティックな響きを売りにしているようなミュージシャンのライヴは、極力小さなハコで観たいではないか。中でも、フォーラムのホールCは、かなりよい条件が揃っているのだ。もちろんクラシックの演奏会をベースに設計されているような中小規模のホールはいくつもあるが、ポピュラー・ミュージックには意外と開放していないもので、せいぜいでブラッド・メルドーあたりのジャズ・ピアニストの公演がいいところだろう。

例えばクラブという選択肢もある。ジェシー・ハリスやマデリン・ペルー、エディ・リーダーなどはクラブでやってくれたが、そうなると立ちっぱなしであったり、ドリンクを運ぶ人たちに目の前を横切られたりと、落ち着いて観れないという難点もある。ステージまでの距離は圧倒的に近いのだが、演奏時間も短かったりする。アルコールを飲みながら聴けるということも魅力ではあるが、酔うと聴覚が鈍るような気がして、実際にクラブで観るときは、ソフト・ドリンクを飲みながらにすることが多い。そういった事情を考えると、音響がよい中小規模のコンサート・ホールで、というのがベストだとも言える。フォーラムのホールCは、職場からも近く、あらゆる面からみて、理想に近い会場なのである。そこで、スザンヌ・ヴェガが観られるとなれば、やはり行かないわけにはいかないのだ。

1980年代のアコースティック・ギターを抱えた、都会の吟遊詩人然とした彼女が大好きだった。デビューしたての彼女は、創作意欲が噴出していたのか、1970年代的な香りがする、フォーキーなシンガー・ソングライターのわりには、勢いのあるアルバムを作っていた。世界中でも屈指の尖った感性を持ったプロデューサー、ミッチェル・フルームと結婚してからのアルバムは、意表を突くものが多くて好きになれなかったものもあるが、芸術点のポイントの高さでは、いずれのアルバムも甲乙付け難い。彼女のアルバムのように、心の奥底まで入り込んできて、揺さぶってくれるような音楽はそうそうない。1980年代の彼女の音は、一聴して入り込んできた。1990年代のアルバムは、繰り返し聴いて、ようやくそのよさに気づく。気がついた時には、意外なほど奥深くまで入り込んでいて、なかなか出ていかない。21世紀になってからのものも含めて、結局のところ、どのアルバムもよくできているのだ。

最新作「ビューティ・アンド・クライム」は、初期の印象を取り戻した面もあり、とりわけ気にいっている。収録時間が短いという難点はあるが、長くて散漫な内容のものよりはよい。どの曲もクオリティが高く、車の中でBGM的に流したりもして、愛聴している。スザンヌ・ヴェガを語るときに、「トムズ・ダイナー」と「ルカ」という、初期の名曲2曲を外すことは不可能だ。1987年に「トムズ・ダイナー」がヒットした頃、「トゥットゥットゥールットゥットゥ・・・」というスキャット(?)が耳から離れなかった人は多いのではなかろうか。また、児童虐待を扱ったと言われる歌詞を持つ「ルカ」で、一気に社会派などというわけの分からない肩書きがついてしまったことも忘れようがないが、当時の彼女のピュアな歌声の魅力は、そうそう記憶から消え去るものではない。

さて、スザンヌ・ヴェガの次に予定されているのは、3月のマルーン5の武道館公演である。これも楽しみだ。しかも、SOFTが全公演参加するという。以前にもマルーン5の前座でツアーをしていたことがあるので、これは予測できた展開でもあった。SOFTは、以前、大阪に住んでいてノイズ&アヴァンギャルド系のレーベルで事務仕事をしていたという、ジョニー・レイネックが中心になって結成されたグループだ。「ストーン・ローゼスの再来」だとか「マッドチェスター・リヴァイヴァリスト」だとか「サード・サマー・オブ・ラヴの到来」などというコピーが飛び交っているが、1990年代英国ロックなどろくに聴いていない自分にとっては、単に気持ちのいい音を出す連中というだけだ。

意外なほどキャッチーな曲もクオリティが高く、マネジメントのトラブルから日本でしか発売されていなかったデビュー盤を録音しなおしたという「ゴーン・フェイデッド」は、最近繰り返し聴いていて、しかも飽きのこない優れものである。この2つのグループが同時に観られるのであれば、もうそれだけで元はとったようなものだ。あとは、こういった複数のバンドが出演するコンサートによくあるのだが、相方の固定ファンが盛り上がらないために演奏が荒れることだけは、何とか避けて欲しいものだ。

何とか仕事を片付けて足早に職場を後にし、つれあいと待ち合わせて急いで食事を済ませ、コンサート会場に駆けつけるときのワクワク感といったら、喩えようもないほどだ。ライヴ盤の名盤を持つミュージシャンのライヴは、やはり期待通りのものが多かったり、懐かしい曲で学生時代にタイムスリップさせてくれるものがあったり、予想外に演奏力があって興奮させてくれる連中がいたりする一方で、ヒット曲や人気のある曲を全然演奏してくれないミュージシャンがいたり、あれっ、ヘタだな、という連中もいたり、レコードやCDで聴くのとは、またひと味もふた味も違った一面が見られることも多い。やっぱり、ライヴが楽しみでならない。


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