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下町音楽夜話

◆第357曲◆ ノー・エクスペクテーションズ


2009.4.25

六本木ミッドタウンの中にあるビルボードライブ東京で、ミック・テイラーのライヴを観てきた。1月にJ.D.サウザーを観にいったときに会員になっていたので、一般に先立って席の予約ができたのだが、おかげでミック・テイラー本人から5メートルも離れていないような位置から、じっくり観ることができた。しかも真正面だ。300人ほどの観客が収容できるこのクラブに出演してくれること自体、信じられないことのようだが、実際に彼は大きなホールではあまりやらないようだ。ローリング・ストーンズの絶頂期を支えた名ギタリストだけに、寂しい気もするが、本人の意向であれば仕方がない。これぞ正真正銘のブルースマンが取るべき行動なのかもしれない。集金ツアーなどといわれたりもする、どこぞのブルースマンよりも、よほど筋が通った男なのだろう。

1960年代、エリック・クラプトンをはじめとした英国人ミュージシャンは、米国のブルースマン達に無辜の憧憬を抱き、自分たちの音楽にブルースを取り入れていった。まだまだ人種差別の意識から抜けきらなかった当時の米国の白人たちには考えられなかったことだろう。60年代後半に大ブームとなったブルース・ロックの名盤が、ほとんど英国発だったことは、ある意味必然性をもっていたのである。スウィンギン・ロンドンと言われた頃の英国において、音楽や映画などのサブ・カルチャーを中心とした急進的な動きは、さぞ刺激的だったことだろう。ローリング・ストーンズはまさにその真っ只中にいたのだ。まもなく結成50周年になろうかというモンスター・バンドではあるが、その黄金期を支えたミック・テイラーの存在は、このバンドにとっても大きな意味を持っているように思える。たった5年間在籍しただけというには、あまりに重たい5年なのだ。また、キース・リチャーズもミック・ジャガーも、ミック・テイラーが在籍していた時期がストーンズの最も輝いていた時期であったということを認めている。万国共通の認識と捉えてよいだろう。

そして、今回の来日公演に先立ち、ローリング・ストーンズの「ノー・エクスペクテーションズ」もプレイする予定ということが発表されていた。これに関しては、もうアタマの上に疑問符が何個も飛び出す状態である。何で「ノー・エクスペクテーションズ」なのか?1968年の名盤「ベガーズ・バンケット」やその直後の珍ライヴ「ロックン・ロール・サーカス」でしか演奏されていない曲である。だいいち、ミック・テイラーがストーンズに加入する前の曲である。確かにストーンズでのデビューとなった1969年7月5日にハイド・パークで行われたコンサートでは演奏しているが、取り立ててライヴの定番というほどの曲でもない。何を考えているのやら・・・。そんなわけで、当日までセットリストが気になって仕方がない状況だった。

しかし、いざ蓋を開けてみれば、期待以上の演奏内容だったのだ。当日のステージはスカパーでの生中継が決まっており、カメラが客席をなめる中で観ていたのだが、それなりに気合も入っていることだろうという期待はしていた。曲間のMCもしっかりと用意されていたようで、流れも非常によく最高のライヴだったと言えるだろう。強いて言えば、ミキシング・エンジニアがあまり慣れていなかったか、ヴォーカルのアタマを2度も外して拾い損ねたことだけは大きな失点だったと言わざるを得ない。

何しろいきなり「シークレット・アフェア」だ。1999年にリリースされたセカンド・アルバムという位置づけの「ア・ストーンズ・スロー」の冒頭を飾る曲で、この曲さえ聴ければ満足できると思っていた曲だ。いきなりボトルネックが唸りをあげ、かなり調子がよさそうなことが観て取れる。ミック・テイラーまでの距離が非常に近いので、指の動きが全て肉眼で見えるのだ。左手の小指にボトルネックをはめたまま、3本指でリードを弾く際も、随分滑らかに指が動いている。上手い人だと思ってはいたが、これほどまでとは。期待以上の出来栄えだ。帽子を被ってムッツリした表情でミック・テイラーをじっと見ながらキーボードを弾いているのは、あのマックス・ミドルトンだ。英国ロックの歴史を語るときに絶対欠かせない重要人物が二人も間近にいるのだ。内心、大興奮ものだった。

2曲目も同アルバムで続けて出てくる「ツイステッド・シスター」だ。軽快なリズムに抑え気味に歌うスタイルは、かなりレコードに忠実なのだが、この辺で彼のヴォーカルも相当に上手いということが分かってくる。ベースのクマ原田にしろ、ドラマーのジェフ・アレンにしろ、そして、かなり前面に出されていたサイド・ギターのデニー・ニューマンにしろ、みな堅実なサポートに徹している。決して派手ではないが、上手い演奏を聴かせており、ミック・テイラーも全く心配がないかのように、アイ・コンタクトもろくにとらない。クマ原田がステージ全体に目を光らせていたようで、熟練の技とともに、さすが長年バックアップを勤めているだけあるといった貫禄を伴った安心感が漂っていた。

ブルースの名曲もいくつかは聴けるだろうと思っていたが、予測していた「レッド・ハウス」や「ユー・ガッタ・ムーヴ」ではなく、何と「ユー・シュック・ミー」ときた。これには、さすがに静かに観ていた観客も沸いた。丁寧に入りながらも徐々に熱を帯びてくるような演奏は、あまりにも素晴らしい。この場にいられてよかったと何度思ったことか。見事なトラ目のレス・ポールは、ペグの調子がイマイチだったのか、曲の途中で何度もチューニングをする姿が気になったが、全くエフェクターを通さないその音質に関しては、もう最高級と言うしかない。最近はストラトキャスターを使うギタリストが多い。しかし自分はレス・ポールをはじめとした、ギブソン系の音のほうが好みなのだ。誤解を承知で書くが、ストラトキャスターは下手くそが弾いても上手く聴こえることがある。その一方で、レス・ポールは実力が如実に出る。素のレス・ポールで抜群にいい音が出せるミック・テイラーは、やはり凄い人なのである。

締めは、サイトの情報のとおり「ノー・エクスペクテーションズ」だ。この曲だけストラトキャスター・モデルのギターに持ち替えてプレイしたが、予想外にロックっぽい演奏で、年齢のわりに渋さで売る性質ではないようだ。ファースト・ステージだったこともあり、アンコールはなしだったが、妙に充実感いっぱいのライヴだった。もう少しマックス・ミドルトンのキーボードが聴きたかったという気もしないではないが、あれ以上のステージを望むのは贅沢というものだろう。かなり暖かくなって気分は上向いてきたが、この調子だと、今年あたりはブルースにハマることになりそうな気もする。久々に自分の人生を見つめ直す、いい機会かもしれない。やれやれ、暑い夏になりそうだ。


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