寒い4月から一気に初夏の陽気になったゴールデン・ウィークの5連休、つれあいの仕事の都合もあり、いきなり時間がたっぷりとれることになったので、一日中iTunesで音楽ををたれ流していた。気に入らない曲は飛ばしながら、ロス・ロボスやJ・ガイルズ・バンドといった、酒でも飲みながらライヴが聴きたいなといった連中のアルバムを聴きまくったのだ。これはこれで楽しかった。仕事頭からなかなか切り替わらずに苦労したこともあり、少々ボリュームを大きめにして、いきなりのめり込めるものを選んだというわけである。以前は職場の若い連中と飲みにいったりすることもあったのだが、最近はそういったことをする気分的な余裕もなくなってしまった。金銭的な余裕ではなく、あくまでも気分的な余裕がないというところが問題なのだ。少しでも時間があれば、仕事のことは忘れて飲みに行くというのは、精神衛生上は決して悪いことではない。あくまでも、たまには、と言う部分は強調しておくが・・・。
ロス・ロボスはL.A.で70年代から活動していたメキシコ系の連中が作ったバンドだが、ヒット曲にはなかなか恵まれなかった。80年代も後半になって、夭逝の天才ロックン・ローラー、リッチー・ヴァレンスの生涯を描いた映画「ラ・バンバ」の主題歌が全米No.1ヒットになり、突如として人気者になったのである。下積みの長さは、やたらと上手い演奏からも明らかだ。毎晩ライヴで鍛えたであろうノリのよさはただ者ではない。メキシコの伝統的な音楽をベースにした演奏が中心だったが、「何でもできまっせ」といった風情は、クラブ・サーキットにはよくある手のものだ。運がよかったとしか言いようがないのだが、「ラ・バンバ」はメキシコ民謡を下敷きにしてロックン・ロールにアレンジした曲だけに、彼らが適役だったのは間違いない。ヒスパニック系の人口増とも相俟って、人気は定着した。
しかも、1990年代には、チャド・ブレイクとミッチェル・フルームの破壊王コンビと組んでラテン・プレイボーイズなるサイド・プロジェクトも立ち上げ、エスニックな要素を否定するのではなく、積極的に活用するような図太さを見せて、現在に至っている。コンスタンスに良質のアルバムもリリースし、演奏の技術的な評価は非常に高く、音楽的な幅広さが同時に可能性の高さとなって、評論家筋には好まれる存在となっている。自分の場合は、彼らのアルバムの中ではさほど人気がない「ザ・ネイバーフッド」というアルバムに収録されているバラード曲が好きで、のんびりしたいときに聴くようにしている。その後はかなりハード・ロック路線に振ったものもあるので、「美味いタコスとコロナビールでホット・メキシカン」といった気分にさせてくれる最後のアルバムといってもよい。勝手な思い込みかもしれないが、独特のノンビリ感がリゾート的ですらあり、堪らなく快感なのである。
一方のJ・ガイルズ・バンドは、ボストンで結成された、元々はブルース・バンドだった連中である。ゴリゴリにハードなロックン・ロールで押しまくる演奏は、ノーテンキとさえ映るものだが、こちらもクラブでの下積みが長かったか、演奏は異様に上手い。ギターのジェローム・ガイルズを中心としたバンドではあるが、ヴォーカルのピーター・ウルフも非常に人気がある男だったし、ブルース・ハープの名手マジック・ディックや世界中探してもなかなかいないほどノリのよいピアノを弾くセス・ジャストマンといった腕利きの集まりである。ブルースに根ざしたロックン・ロールの名手となると、どうしてもローリング・ストーンズと比較されてしまうが、明らかに別ものである。アメリカナイズされたJ・ガイルズ・バンドの演奏は、もっと、もっと泥臭く、肉体的なものである。知性がどうのといった部分は置いておいて、とりあえずノリを最優先といったところが気持ちよいのである。
J・ガイルズ・バンドでは初期のアルバムが好きだ。80年代の声を聴くころには、随分ポップな曲もやるようになって、アルバム「フリーズ・フレイム」からシングル・カットされた「センターフォールド」などは、お色気タップリのヴィデオのせいもあったか、全米No.1を何週も続ける大ヒットとなった。しかし、J・ガイルズ・バンドが好きな連中は皆お約束のように初期のアルバムが好きと言う。自分の場合も、1枚目と2枚目が愛聴盤である。とりわけ、1枚目の出だしの1曲「ウェイト」はミドル・テンポのロックン・ロールだが、自宅で聴いていても、手拍子を打ちたくなるノリのよさだ。この絶妙のテンポが、この連中がただ者ではない部分でもある。アップテンポでノリノリに演奏するのは簡単だが、この絶妙のテンポが憎いのだ。
また2枚目「モーニング・アフター」の2曲目「ワマー・ジャマー」も大好きな曲だ。ピーター・ウルフには申し訳ないが、このブルース・ハープを前面にフィーチャーしたインスト曲が、このバンドでは最高の1曲だろう。翌年にリリースされたライヴ盤「フル・ハウス」にもスタジオ録音以上にはじけたテイクが収録されているが、いずれも2分半程度の短い曲であり、物足りなさを残して終わってしまう。これでは物足りないと思う人間が他にもいたようで、この曲は、FENが番組の最後の部分の時間調整で使っていたのだが、エンドレスになるようにリミックスしてあったのである。日によっては随分長い間、この曲が流れていたものだ。当時は誰の演奏か判っていたわけではないのだが、聴くたびに格好良いなあと思っていたものだ。J・ガイルズ・バンドは、1985年にヴォーカリストのピーター・ウルフが脱退して活動を停止してしまうが、時代ともズレが生じてきたようにも思ったし、仕方がないのかなと思ったものだ。地味なリーダーのバンドで、メンバー・チェンジは一切なく、結束は固かっただけに残念だった。
最近はドクター・ストップ状態で、自分は強い酒など一切口にしないのだが、昔は血を吐くまで飲んだりもしたし、一晩で一瓶空けるくらいは時々やっていた。何だか世の中全体が妙に忙しくなってしまい、のんびり酒を飲む余裕もないといった毎日を送っている自分も、年に一・二度はのんびりできる機会に恵まれることもある。今年は6年ぶりにゴールデン・ウィークが休めたので、久しぶりにのんびりできたのだ。そんなときに、たまたま、ロス・ロボスやJ・ガイルズ・バンドといった音楽を聴いてしまい、強い酒が飲みたくなってしまったというわけだ。今となっては、せいぜい頭痛薬がわりに赤ワインを嗜む程度しかアルコールを口にすることはないが、翌日もノンビリできるのであれば、たまにはバーボンやウォッカもいいかなと思ったりもする。それにしても、最近の音楽には、酒が飲みたくなるようなものがあまりないように思うのは自分だけだろうか。