ついに「レッチリについて書くか」という気になってしまった。日本ではレッチリで通るが、海外ではRHCPもしくはチリ・ペッパーズと言わないと通じないということだが、自分が知る限り、みんなレッド・ホット・チリ・ペッパーズとフルネームで呼んでいたので真偽のほどは定かではない。彼等も1983年から活動しているというのだから、もうすっかりヴェテランの域というわけだが、自分のようなオジサンにはどうもとっつきにくいバンドの代表というか、パンク以後のすっかり価値観が変わってしまってからのロックとして括ってしまうバンドの一つである。以前にも下町音楽夜話第283曲などでは「御縁がなかったバンド」と書いているほどである。それでも気になるバンドではあるのだ。実はアルバムも全て買い揃えているのである。
言い訳のようだが、1989年のスティーヴィー・ワンダーの名曲のカヴァー「ハイヤー・グラウンド」と、1991年の名バラード「アンダー・ザ・ブリッジ」があるので、一応はフォローするバンドといった位置づけなのだ。ジョン・フルシアンテのギターがどうかと訊かれると、デレク・トラックスやジョン・メイヤーの方が…と現代の3大ギタリストでは3番目という評価にならざるを得ない。しかし、ベースのフリーはそれなりに、というか相当高く評価してはいる。正直言って、これまでのところはフリーのバンドという意識だったのである。それが、昨年リリースされたハエのアルバム・ジャケットが印象的な「アイム・ウィズ・ユー」が心の隅っこに棘のように刺さったままで、どうにも気になっていけないのだ。やはりもの凄くいいバンドなのかな?という評価が自分の中に沸いてきてしまったのだ。
自分が聴くものの幅広さは、悪食なまでと言っているが、それでもダメなものはやはりダメなのだ。例を挙げるのは憚られるが、強いて言うならば、オアシスなどはベスト盤を買ってみたりはしたものの、みんな似た曲のように聴こえていけないし、色物的なファンクなどはどうにも聴く気にならない。クラシックからジャズ、ロック、カントリーなど何でもいける耳ではあるが、極一部にダメなものがあるというわけだ。レッチリもそのクチだったのだが、どうにも気になっていけないというあたりは、ヴァン・モリソンなどと一緒なのだ。結局のところ、新盤が出れば予約するほどではないものの、一応は聴いているのである。
さて、そんなレッチリの今のところの最新盤「アイム・ウィズ・ユー」は、ギタリストのジョン・フルシアンテがいない。穴を埋めているのはジョッシュ・クリングホッファーである。ジョン・フルシアンテのソロ・アルバムにも参加しているレッチリ周辺人脈の一人である。5年ぶりの新作ということで、期待していたファンには肩透かしだった人選ではあるものの、そこには正常進化形のレッチリの姿があったと考えたい。自分には久々に訴えてくるものがあったのだ。それは第1弾シングルだった「レイン・ダンス・マギーの冒険」という曲で、フリーのファンクネスを抑え気味にしたメロディアスなベースラインが耳に貼りついて離れないのだ。ギターも適度にフリーキーで申し分ない馴染み加減である。相当にリハをこなしたということなのか、十分にバンド・サウンドに馴染んでいるのである。日産エルグランドのCMとのタイアップにもなった第2弾シングル「モナーキー・オブ・ローゼズ」の方がアッパーで、聴き易く売れ線という気もするが、「レイン・ダンス・マギーの冒険」を第1弾にしてくれたことが嬉しい。
どうしても気になって、アナログ盤も買ってみたのだが、そこから得られたものは特になかった。アナログ・サウンドに拘るといった要素は彼らには無いらしい。実は昨秋のレコード・ストア・デイ限定記念商品の一つにレッチリの「ブラッド・シュガー・セックス・マジック」のアナログ盤が含まれていたのだ。他のアイテムが強力過ぎて購入意欲は殺がれてしまったが、アナログで聴きたいと思わせるバンドなのだろうかということが気になっていたのである。しかし、それはさすがに思い過ごしだったようで、別段アナログ・サウンドでは別物に聴こえるということはない。ただし、フリーのベースラインは、やはりただ者ではない。相変わらず自分にとってレッチリは、フリーのバンドなのである。
さらにフリー関連の嬉しいリリースがある。ブラーのデーモン・アルバーンとフリーが組んで新バンドを始動させたのだ。ロケット・ジュース&ザ・ムーンというバンド、いきなりアナログでリリースしてくるあたり、やはり気になる。ダメモトで予約注文してしまった。エリカ・バドゥやアフリカのマリあたりのミュージシャンも参加して、相当にファンキーな仕上がりとなっているという。フリーの場合、これまでも武者修行とも言われるほどバンド外活動が活発な人間なので、これでレッチリが終わるかという気が全くしないところがまた面白い。年度当初のバタバタは、ファンキーなフリーのベースで乗り切ることとしよう。