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下町音楽夜話

◆第529曲◆ タバコ・ジャケットはお好き


2012.8.11

私はタバコを吸わない。生まれて一本も吸ったことがない。子どもの時分、母や兄が吸っていたので、嫌いになってしまったという気もするが、実際のところ、興味がなかっただけである。だから、煙モクモクのジャズ喫茶に居ても、全く問題ないし、同席者がタバコを吸っているからといって、別に不快でも何でもない。ただし、マナーの悪い喫煙者が吸殻のポイ捨てなどをしたり、歩行喫煙の灰が飛んできたりすると腹が立つといったところだ。また、現在は循環器系の病気を持っているので、今更進んで吸おうとも思わない。その一方で、最近のヒステリックなまでの嫌煙傾向には、少々喫煙者が気の毒に思う。マナーの悪い喫煙者が悪いのだという気もするが、世の中の傾向は完全禁煙に向かっている。健康に悪いということであれば仕方ないが、どうも過剰という気もする。

昔からジャズのレコード・ジャケットには多くのタバコが登場する。ジャズと言わずとも、ドナルド・フェイゲンの「ザ・ナイトフライ」やヴァン・ヘイレンの「1984」、リッキー・リー・ジョーンズのデビュー・アルバムなど、ロックの世界にも優れたタバコ・ジャケットはあるが、やはりジャズのほうが似合うというのは、誰もが認めることであろう。ジャズには多くの名作タバコ・ジャケットが存在する。なかでもチャールズ・ミンガスの「アット・ザ・ボヘミア」やエルヴィン・ジョーンズ&リチャード・デイヴィスの「ヘヴィ・サウンズ」などは格好よすぎだろうというものだ。一方、ビル・エヴァンスの諸作やマイルス・デイヴィスの諸作には、そこはかとなく知性を感じさせるタバコが登場する。気だるさや物憂げな雰囲気が、タバコという小道具ひとつで大幅に増幅され、しかも少々美化されている。欲を言えば、さらに強い酒でもというところだが、不思議とそうでもないところがまた面白い。

少々やり過ぎかと思われるのはウェス・モンゴメリーのジャケットである。「ギター・オン・ザ・ゴー」などのまっとうなタバコ・ジャケも存在するが、「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」の吸殻ジャケはどうもいただけない。吸殻の吸い口のところにうっすらと口紅がついていることが色っぽいということで評価されているようだが、自分はどうも好きになれないものだ。また、タバコはイメージを左右すると思うのか、人によっては使わない場合もあれば、ベタな使い方をする場合もある。ブルー・ノート盤には多くのグッド・タバコ・ジャケットが存在するが、リー・モーガンにはほとんどないことが面白い。その一方で、多くの盤で共演しているハンク・モブレーは好んで使っている。しかし、あまりにベタで惹かれない。「ハンク・モブレー・アンド・ヒズ・オール・スターズ」の咥えタバコで楽譜を見ているジャケはなかなかいいが、「ワーク・アウト」のしゃがんでタバコを吸っている姿は、何がいいのかよく分からない。中味がいいので、残念にすら思う。ジャケット・デザインには恵まれないブルー・ミッチェルに関しては、「ブルース・ムーズ」という、かなり格好よいジャケットのアルバムが存在することは、密かに嬉しく思っている。大好きな盤というだけのことでもある。

そして、どうしても忘れられないのがソニー・ロリンズの「ヴォリューム2」、ブルー・ノート録音の第2集というやつだ。テナー・サックスを抱えながらタバコをふかしている姿は、紛れもなくジャズを体現している。そして、そのジャケットを完璧に真似た「ボディ・アンド・ソウル」をリリースしたジョー・ジャクソンのセンスには脱帽ものである。ジョー・ジャクソンは、もともとクラシックの素養もある人で、パンクもレゲエもジャズもロックもR&Bもいけるという、マルチな才能を持っている人間だけに、何が飛び出してくるか分からない面白さがある。まったく油断ならない懐の深さとセンスのよさはワン・アンド・オンリーと言ってよかろう。そのジョー・ジャクソンは猛烈な愛煙家で、あちこちで禁煙条例の反対運動に参加するといった活動まで行っている。本来は英国人だが、長年住み続けたニュー・ヨークの禁煙条例に嫌気がさして2003年に英国に戻ったが、2007年には英国の全面禁煙条例が施行され、それを機にベルリンに移り住み、現在は彼の地で禁煙条例反対運動をやっているという。大したものだ。

先日、ドライヴ旅行に出かけた際、ジョー・ジャクソンの最近の盤を数枚持っていった。最近は初期のパンキッシュなメンバーが再集結して活動をしているということで、古いライヴ音源のリリースも続いている。ラフながらメロディアスな、決して侮れない昔のライヴも悪くない。一方で80年代を代表する名曲「ステッピン・アウト」も大好きだ。そして最新盤「デューク」は、何とデューク・エリントン・トリビュートときた。しかも一筋縄ではいかない内容で、かなりハードな音のギターが絡んできたりする。この盤、自分にとっては今年の五指に入る一枚と言ってよかろう。90年代はうつ病などで活動もままならなかったということだが、そんな逸話が俄かに信じられない出来のよさである。日本では過小評価としか言いようのない状況のジョー・ジャクソンだが、まだまだ、当分は目が離せない状況が続きそうだ。ぜひ、再度、タバコ・ジャケットの名盤でもリリースすればいい。その方が下手な反対運動より効果があるだろうに。


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