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下町音楽夜話

◆第534曲◆ 東京ジャズ2012…またか


2012.9.15

東京ジャズ2012に行ってきた。最終日の東京国際フォーラムは、文字どおり満席で驚いた。皆さんのお目当ては、新進気鋭のエスペランサ・スポルディングか、ハイテク集団カシオペアの現在形か、それとも懐かしいアーバン・テイスト満載のボブ・ジェームスか、と考えていたが、リアクションで一目瞭然だった。かなりの割合でカシオペアのファンが集まっていたらしい。とはいえ、エスペランサ・スポルディングやボブ・ジェームスのときに拍手が少ないわけでもなく、なかなか暖かい雰囲気のいいコンサートであった…と言いたいところだが、毎度毎度東京ジャズには満足できないと書いているので、本当に呆れてしまうのだが、今年も音響は最悪であった。全く学習しない奴等だと不思議になるが、15分間のセットチェンジに無理があるのだろうか?一番手のエスペランサ・スポルディングはまだ満足できたのだが、カシオペアは割れ割れ、ボブ・ジェームスのバランスの悪さは腹立たしいほどであった。

一番手はエスペランサ・スポルディングだ。ラジオ・ミュージック・ソサエティと呼ばれる大所帯のバンドは、テクニックはそこそこだが、楽しくかつ個性的な、独特のノリを聴かせていた。果たしてどれだけのオーディエンスがこの音楽を理解しているやらとも思ったが、なかなか難解なポップスとでもいった音楽は、ジャジーでもなし、R&Bでもなし、かなり個性が際立っていた。自分は最新盤の一曲目「ラジオ・ソング」がお目当てといったところだったが、やはりラストで思い切り聴衆をノセるためのものとして位置づけられていたようだが、どうもジックリ聴きたがる日本人の性向を理解していなかったようで、少々諦め顔だったのがむしろ残念であった。MCやメンバー紹介も含めて、全てが芝居がかっているようなステージは、しっかり練り上げられたものなのだろうが、それならもっとミュージカル仕立てにしてしまうなどした方が楽しめたのではなかろうか。ラジオ・ミュージック・ソサエティの面々は意外に役者揃いのような気もしたので、ぜひとも試してみてもらいたいものだ。

二番手はカシオペア3である。自分は、カシオペアをちゃんと聴いたことがないので、彼らの音楽について語る資格はない。ただやたらと上手い人たちだなということは分かる。それこそ一目瞭然だ。世界でもトップレベルのテクニシャン揃いなのだろう。しかし、曲を知らないにしても、あまり楽しめたとは言えないことも事実で、とにかく鳴瀬喜博のいかにもアクティヴなベースの音がうるさ過ぎて辟易としたこともある。これは彼らのせいとばかりは言えない。それにしても、実に日本人なんだなということ、具体的にはトヨタ車に似ているなということを考えていたのだ。いや、トヨタの中でも高級なレクサスと言ったほうがより正しいか。とにかく高性能、高品質、スタイルも全方位格好よいのだが、おそらくヴィンテージ・カー・ミュージアムに収蔵されることはないだろうという、あの感覚なのだ。日本車だって、いすゞ117クーペやマツダ・ロータリー・クーペやホンダ・ビートのように、特別な高級車でなくとも、ヴィンテージ・カーの仲間入りを果たしているものはあるのだが、どうも何かが違うのだ。最近の表現を借りれば、ガラパゴス的というのだろうか。そんな印象を持ちながらも、上手いなあと呆れるばかりであった。

ラストのボブ・ジェームスは、まず下町音楽夜話第521曲で書いたとおり、「マルコ・ポーロ」を演奏してくれないかなぁという淡い期待も虚しく、全てが馴染みのない曲であった。強いて言えば、一旦終了した後に、スペシャル・ゲストとして松田聖子を迎えて「上を向いて歩こう」を演ってくれたことが特筆すべきといったところか。また、彼女はもう一曲、東関東大震災の被災者を励ますために作ったという曲をピアノのみの伴奏で歌ってくれたのだが、終わってみれば、この2曲が妙に印象に残ってしまった。その他の曲は1970年代のCTI時代の曲が中心で、70年代的アーバン・テイストに満ちた、いかにも大人の音楽といった風情の、落ち着いたものだったのだ。ドラムスはスティーヴ・ガッドだし、ベースは暴れながら演奏するウィル・リーなので、もう少し派手な曲も期待していたのだが、少々肩透かしといった具合である。前述のとおりバランスは酷かったが、演奏は殊の外満足できるものであった。

正直言って、72歳という結構なご高齢であることも、また昔からじいさんくさい容貌も、マイナスに働いていたかもしれない。見た目に騙されたといったところだ。予想外に演奏はしっかりしているし、さざ波のようなお得意のフレーズも披露してくれた。考えてみれば、フォープレイでもやっているのだから、ライヴから遠ざかっているわけでもないのだろう。前日は京都の東福寺で、やはり震災復興祈念の演奏をこなしているという。お疲れでもあっただろうに、まったくもって矍鑠たるものであった。そういう意味では、音の悪さが恨めしいというものだ。せっかくの松田聖子のヴォーカルも、いいとは言い難い音質だったし、非常に貴重な内容のライヴだっただけに、恨めしさも倍増といったところであった。毎度素晴らしいラインナップなのに、手放しで褒めることができない、不思議なイヴェントである。


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