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下町音楽夜話

◆第607曲◆ モービル・フィデリティの「つづれおり」


2014.2.8

自分の場合、あまりオーディオには金をかけない。一枚でも多くレコードを聴きたいから、という理由を掲げて何度か書いてきたことではある。新しいメディアを試してみることは嫌いではないので、PCの周辺機器として最新のメディア・ドライヴは接続してあるが、ホームオーディオに関しては、いずれの機器も長持ちしてしまうので、頻繁に買い換える必要がないのだ。JBLのスピーカーも、いつの間にか20年選手になってしまった。そんなヤツが書いていることなので割り引いて読んでいただきたいが、どうしても最近の録音のヴォーカルの音質が気に入らないのである。とりわけ音質を期待して聴く類の音楽ではないにせよ、何故こんなにヴォーカルの抜けが悪い音のレコードが横行しているのか、不思議でならないのである。

グラミー賞を獲得した盤なのに褒められた音質ではないのであえて書くが、アデルやジョス・ストーンの録音など一体何が起きているのかと思ってしまうのだ。レトロっぽい雰囲気を狙ったというのであれば、勘違いも甚だしいと言いたい。どうしてこうも抜けの悪い録音になっているのだろうか。大ヒット曲「ローリング・イン・ザ・ディープ」など、好きな曲だけに毎度残念でならない。残念を通り越して、虚脱感をおぼえてしまう。ジョス・ストーンの「ザ・ソウル・セッションズ2」も納得がいかない。1960年代70年代のヴィンテージ・ソウルの音質に似せたとでも言うのだろうか。40年50年も前の録音のほうがよほどいい音で鳴るではないか。これでは技術の進歩や進化とはいったい何だったのかとなってしまう。気になってしまい、どちらもアナログ盤も買って試してみたが、やはり大差ないように思う。

自分が音楽にハマり込んだ1970年代、シンガー・ソングライター・ブームとともに、ポピュラー・ミュージックは巨大産業化していった。その時代のレコードは、当然ながらAAA、アナログ録音、アナログ・ミキシング、アナログ・マスタリングで作られていた。オーバー・ダブを繰り返した結果、当初に録音したリズム・トラックの音質が劣化したため、最終段階に至って録り直したというフリートウッド・マックの「噂」の逸話もあるが、あの当時はみんな苦労して少しでもいい音のレコードを作ろうと努力していたはずだ。スタジオ・ライヴのような一発録音の場合はバランスの問題だけかもしれないが、重ね録りの場合でも、ヴォーカルはベーシック・トラックが出来上がってから録音するので、音質を評価するうえで最も判断しやすいものとなる。リンダ・ロンシュタットやカーリー・サイモンも然り、エルトン・ジョンのアルバムも、みんないい声音で鳴っていたように思う。

ひいき目かもしれないが、キャロル・キングの「つづれおり」やジェイムス・テイラーの青シャツ3枚の各盤など、ゾクッとするほどいい音で、ヴォーカルが収録されている。まるで耳元で歌ってくれているかのような録音に、毎度嬉しくなってしまう。一方ロッド・スチュワートやトム・ウェイツのような美しくない声の類も、音質が悪かったら聴けたものではないではないか。1970年代80年代のアナログ録音は素晴らしいレベルまで達していたと思う。その後、CDの登場とともにデジタル・ミキシングやデジタル・マスタリングがいい音質と思えるようになるまでかなり長い時間を要するが、最近のリマスター盤は確かにいい音のものが多くなったとは思う。それでも、ようやくアナロクのレベルに近づいてきたというだけだ。

世の中には、オーディオファイル向けと言われる高音質アナログ盤が存在する。先日キャロル・キングの「つづれおり」のモービル・フィデリティ盤が発売になり、さすがに気になり入手してみた。普段、あまりこういった盤には手を出さないのだが、「つづれおり」などは別格である。元々満足していた音質だっただけに、劇的な変化など期待するつもりもないが、やはり実にナチュラルに鳴ってくれる。聴き比べをする時間的余裕がないことが恨めしいが、思うにどちらが好みかというレベルかもしれない。ともあれ、素晴らしい体験である。モービル・フィデリティのアナログ盤は、他にもゲッツ・ジルベルトやマデリン・ペルーなど、どうしてもいい音で聴いておきたい大好きなものだけ購入している。高音質CDやハイレゾ音源と比べてみたときに、それだけの金を出すだけの価値があると思えるか、イエスと言い切れる自信はないが、満足はしている。とにかく、大好きだと思えるレコードの高音質盤がリリースされているのであれば、やはり聴いておくべきだ。期待させるだけの対価を支払えば、さらに愛情も深まるというものだし、ある程度のレベルで鳴ってくれることは保障されている。そのことを確認するだけでも、なかなか楽しい作業なのである。


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