ノスタルジア77の新盤「ア・ジャーニー・トゥ・ファー」がリリースされた。これまでと同様、ジャケットアートがどうも面白くない。自分とは相入れない感性のデザイナーが手掛けているようだ。アナログ盤には、7インチ盤が一枚とダウンロード・コードがおまけでついてきた。おまけの2曲を合わせて11曲、CDと同じ曲数となる。CDとの容量の違いは致し方ないとして、2枚組3面のものもあれば、こういう何とも中途半端なかたちになるものもある。意図してというのであればそれもよしとするが、7インチも含め、内袋は白い紙製のつまらないものだし、金のかけ方や演出の仕方などもう少し工夫すればいいのにと思わなくもない。どうもいけない。
7インチ盤付きというものは結構いろいろあった。懐かしいところでは、イエスのベスト盤「クラシック・イエス」やジェファーソン・スターシップの「ゴールド」など、瞬時に思い出される。「クラシック・イエス」は、先日、ダウンタウン・レコードで非常に状態のいいものを入手したのだが、残念なことに白レーベルの見本盤だった。それでも、この盤を入手する目的は、あくまでロジャー・ディーンがデザインしたジャケットにあるので、特に問題ない。帯も7インチ盤もついているので文句はない。ただ、この盤に関しては、イエスの代表曲「ラウンドアバウト」と「オール・グッド・ピープル」のライヴ・テイクが7インチ盤に収録されていることが売りというわけで、見方を変えれば、その2曲が含まれていない本体のほうは、かなり無理がある選曲となっているのである。個人的には、珍盤の部類として捉えている。
話が逸れてしまった。ノスタルジア77に戻そう。この何を意図しているのかよく分からないネーミングのプロジェクトは、英国のマルチに楽器も操るプロデューサー、ベンディク・ラムディンが中心に音を作り、ゲスト・ヴォーカルが出入りするスタイルをとっている。残念ながら新作に参加しているJosa
Peitというドイツ人の女性ヴォーカリストにはさほどの個性も魅力も感じなかったのだが、楽曲のクオリティはなかなか高いと感じた。2008年のアルバム「エヴリシング・アンダー・ザ・サン」に参加していたリジー・パークスという女性の声がなかなか魅力的で、程よくジャジーな内容とともに、結構気に入っていた。ウッドベースの音が少し大きめなバランスのため、いかにもカフェのBGMを意識したかと言いたくなる。本格的なモダンジャズから距離を置いた、即興性などまるでないアレンジと、SE的な音が今風でもある。プロジェクト名に騙されて買うといけないのであえて記すが、さほどノスタルジックな音楽とは思えない。
21世紀になってからというもの、ジャズ周辺領域のミュージシャンは非常に元気がよいのだが、それはあくまでもジャズとカントリー/ブルーグラスのクロスオーバー的な音だったり、ジャズとR&Bやソウル、ヒップホップといったダンス・ミュージックとの融合といったものに限られるわけで、90年代前半に持て囃されたアシッド・ジャズやUKソウルといったものとは一線を画している。ブラン・ニュー・ヘヴィーズやインコグニートなどは大好きだったこともあり、近似性は感じつつもどこが違うのか、不思議に思っていたものだ。一時はあれほど勢いのあったブラン・ニュー・ヘヴィーズは、最近でこそ復活して立て続けにアルバムもリリースしているが、2000年代前半は、名前を耳にすることすら無くなっていた。これらはやはり、全く別物と考えるべきなのだろう。ギターのカッティングが幅をきかせるファンク寄りのダンサブルなものと、最近のブルーノートあたりのジャズの現在形とも言うべきものは、明らかに違う世界の音楽だ。
ノスタルジア77のような、ヨーロピアン・テイスト溢れる音楽を耳にし、どこがアメリカンなものと違うのか、あらためて考えさせられた。演奏がタイトなのは、ヨーロッパのほうだ。ただし、ヘッド・アレンジと言うべきソツの無さが、かえって面白みを薄めていることが多い。その一方で、妙に知性を感じさせたり、凛とした佇まいが好ましかったりもする。しかし、一歩間違えると、妙につまらないものもある。その境界線はかなりきわどいもので、混在している場合も多い。猛烈に気に入った曲が1〜2曲あっても、アルバム全体が満足のいくものだった試しがない。ノスタルジア77はその典型と言えるのだ。新盤「ア・ジャーニー・トゥ・ファー」も、1曲目「ホワット・ドゥ・ユー・ノウ」で渋いなと思わせ、2曲目「クレセント・シティ」でいいメロディに満足度が高まる。しかし3曲目「ドント・ラン」で一気に落とされる。あのリズムはないだろう。一体何を考えているのだと、目が点になる。まったく、この盤、どうしてくれようか。