久々にオーディオ関係の衝動買いをしてしまった。ジェネーバ・サウンド・システムというスイスのメーカーのスピーカーである。休日の午後、所用を済ませた後に有楽町をウロついていたら、某雑貨屋さんから妙にいい音が流れてくるのである。たまたまつれあいがその店の中に入ったのですかさず音源に近寄ってみたら、何とも小さなスピーカーからあまり好みではないタイプのクラブ系ミュージックが大音量で流れている。低音がキツ過ぎだなと思うとともに、何とも不思議な音場に首を傾げて見入ってしまったのだ。ちゃんとステレオ的音場が作られているのに、音源は1つしか見つけられない。相方がどこで鳴っているんだと探しているうちに、店員が寄ってきて説明してくれた。単体のシステムに2つのスピーカーが組み込まれており、120度の範囲でベストの音像を組むように作られているという。
最近オーディオには疎いので大人しく説明を聞いていたら、その店員はiPhoneに保存してある動画を見せながらブルートゥースで飛ばせるという実演もしてくれ、ホームシアター並みの迫力と言いながら爆裂音を結構なボリュームで流したりしてくれた。昔懐かしいモノラルの単音源の突き刺さるような迫力とも違う、何とも広がりのある音が、ちっぽけなスピーカーから吐き出されているのである。凄い技術だなと思いつつも、若干作り込まれたヴァーチャルな感触に違和感を覚えながら、他のもう少し大き目のサイズのものも鳴らしてもらった。こちらはさすがにフルレンジ2発ではなく、単体のボディに3組のスピーカを組み込んでいるらしく、違和感のない鳴りである。小さいのが4万円程度、大きいのが16万円程度と価格差もしっかりつけてあるが、明らかに価格以上の鳴をしているように思えた。
カフェで鳴らすスピーカーを検討していることは事実なのだが、アナログ盤をゆとりのあるハイパワーで鳴らしたいという願望がある反面、ランチタイムなど、レコード盤をひっくり返している余裕など無さそうな時間帯のことを考えると、さてどうしたものかと思い悩んでいたのである。ジェネーバの音を聴いたとき、100%満足したわけではないが、これは面白いのではないかと思ったのである。いったん近くのカフェに移動し、帰りにまだ欲しいと思うようであれば、試しに買ってみるかと思ったのだが、結局カフェから直行で戻り、買って帰ったというわけである。店舗では大きな方がいいだろうとは思いつつ、小さな方を買ってみたのだ。このフルレンジ2発を単体に詰め込んである小さなスピーカーから、想像もつかない迫力ある低音が出てくることが面白いのだ。始めてボーズのスピーカーの音を聴いたときに似た驚きだったのである。
翌日から、PCに繋ぎ、いろいろ試してみた。ご存知のようにレファレンスとして使っている、パット・メセニーの「アー・ユー・ゴーイング・ウィズ・ミー?」やノラ・ジョーンズの「カム・アウェイ・ウィズ・ミー」など一通り聴いてみて、自宅では十分に鳴らし切れないことが残念に思えた。それでも、ボリュームを絞って卓上に置き、ニアフィールドとして使っても十分に満足のいく低音が出ることが予想外の収穫である。これだけしっかり低音が出るとなると、アレがどう鳴るんだということが気になる。スピーカーの低音の鳴りを調べるにはうってつけの曲、レッド・ツェッペリンの「カスタード・パイ」である。終盤にジョン・ボーナムの超重量級ブレイクが入っているのである。アナログ盤では異様なまでにアタックの強い音で鳴るのだが、果たしてMP3音源では、…この程度か。それでも、これまで聴いてきたスピーカーの中では最もアタックが強い鳴りである。
せっかくなので、エレクトリック・ライト・オーケストラの「ポーカー」も聴いてみる。こちらもべヴ・ベヴァンの猛烈な重低音ブレイクが入る曲である。こちらは意外にも分離がよくなっている。いままでモコモコモコモコといった籠った音に聴こえていたものが、しっかり、ドコドコドコドコと聞こえるのである。確かにアナログ盤ほどの塊感がない分、迫力は足りないのだが、音のよさというものを感じさせるのだ。メリハリもしっかり出すことはできる。イコライジングの効果はそれなりで、ソフト的なイコライジングほどではないが、程よく強調された高音と低音は品のよい鳴りを聴かせる。ボリュームを絞っているかぎりは、ちんまりと纏まったバランスのよい音でしか鳴らないが、ボリュームを上げたときにはそれなりの迫力が楽しめる。これはいい。ぜひ店舗でしっかり鳴らしてみたいものだ。…しかし、こんな迫力のあるドラムスの曲を、カフェで流すわけにはいかないか。…お客さんのいないときに鳴らそっと。