ウィルコの20年の軌跡をたどるベスト盤「ホワッツ・ユア・20?」がリリースされた。また同時にレア音源集「アルファ・マイク・フォックストロット」もリリースされた。何とも嬉しいウィルコ祭りである。ベスト盤はCD2枚組38曲というボリュームで、かなり満足度が高い。ベスト盤の選曲に関して、満足したことがないと言ってもいい人間だけに、自分の好きな曲が全て入っているようなベスト盤に出くわしたとき、妙に感慨深いものがあるのである。21世紀になって最も多く聴いているバンドでもあるし、今のところ21世紀のロック・シーンにおいて、最重要バンドだと思っている。曲のクオリティだけをとっても、ビートルズを凌駕するレベルだと感じているが、言い過ぎだろうか。
その一方で、レア音源集はCD4枚組である。アナログ盤も4枚組ということだが、まだ手許に届かない。いつもの如く、アナログ盤だけは出荷が遅れているようだ。こちらは77曲のレア・トラックスとライヴ音源が収録されているが、さほど満足度が高いものではない。レア音源集で内容の充実したものもあるにはあるだろうが、どのみちアルバムに収録されなかった残り音源なので、クオリティを望むべきではない。ファンなら有り難く拝聴すべしという類のものだが、ライヴ音源が多いとちょいと面白味に欠けるというものでもある。別テイクが多いのは好き嫌いあろうが、全然違ったアレンジの別テイクならまだしも、オリジナルとどこが違うのか分からない程度の別音源がいっぱいというのもつまらないものである。ライヴだって、アレンジが大きく変えてある方が面白いと言えば面白い。そういう意味ではレッド・ツェッペリンのライヴ盤などは聴く価値が高いというものだ。
さて、ウィルコだが、創立メンバーで今も続いているのは、中心人物のジェフ・トゥイーディとベーシストのジョン・スティラットの2人になってしまった。オルタナ・カントリーの伝説的なバンド、アンクル・テュペロで双頭的な存在だったサン・ヴォルトのジェイ・ファーラーが抜けてしまい、ジェフ・トゥイーディが始めたバンドなのだが、初期はアンクル・テュペロ色が濃く、今よりもずっとカントリー寄りの音を出していた。従って、ベスト盤にしろ、レア音源集にしろ、音楽性がまるで違う2つのバンドの音源が混ざっているようなもので、統一感は望めない。自分の場合、アンクル・テュペロも大好きだし、ウィルコも、ついでに言えば、ジェイ・ファーラーのサン・ヴォルトも大好きなので、あまり問題はないとも言えるのだが、古いレア音源部分をBGM的に流して聴いていたときに、「誰だ、これ?」と何度も演奏者をチェックするハメになった。やはり21世紀になった頃からのウィルコは、怪物が正体を現し始めたようなスリル感があって病みつきになる。
特にネルス・クラインやグレン・コッチェなど、ソロ活動もできるような腕達者が参加したことで、演奏クオリティも急激に上昇するが、結果的にジェフ・トゥイーディのバンドだという色彩がより強くなったようにも思う。とても個性的に思える曲が多い中でも「インポシブル・ジャーマニー」や「ウォーケン」などの名曲と言えるレベルのものがどんどん出てくるあたり、凄みがオーラのように立ち上がっている。彼の才能が並大抵のものではない、やはり比肩し得るのはポール・マッカートニーあたりなのではないかと思わせる所以は、もうその一点、個性的な曲のクオリティに尽きる。次に出てくる音はこれでなければと思わせる音が繋がって行く。完成度の高さに舌を巻く。
それにしても、このバロック真珠のような歪んだ美しさは何なのだろう。ビートルズをノイズで装飾したようなポップでメロディアスな曲なのに、決してポップ過ぎることはない。それでいてノイズまでもが必然性を感じさせる存在感と心地よさを持っている。結局のところ、ベスト盤で聴くというのはウィルコの曲のよさを再確認する作業となってしまう。では77曲ものレア音源はどうか。結論から言うと、アルバム収録曲の選から漏れたことが仕方ないかと思われるものが多い中で、やはり捨ててはおけない光るメロディが散在していることが面白い。やはり、こういうかたちで世に出すべきものなのだろう。それにしても、凄いクオリティではないか。早く次が聴きたいと思うのは贅沢だろうか。親子プロジェクト、トゥイーディも意外なほどのクオリティだったが、やはりウィルコとしてのニュー・アルバムが待ち遠しくて仕方がない。原点回帰などはまだ早い。まだまだ行けそうな気がしてならないのである。