- 数ヶ月前になるが、ジェフ・ベックのライブ盤「ライブ・アット・BBキング・ブルース・クラブ」が発売された。日本では非常に人気のあるギタリストなので、もっと騒がれてよさそうなのだが全然広告なども見かけない。ボーナス・トラックが収録されているといけないので、日本盤の発売を待って確認して購入しようと思っていたら、かなりの時間が過ぎてしまった。それにしても話題にならないのでおかしいと思い、いろいろ調べてみたら、なんとオフィシャル・ウェブ・サイト限定で発売になっていたのだ。またひとつデジタル・デバイドに直面してしまった。それにしても、インターネットでライブ盤CDを購入するという、極めてヴァーチャルな行為が面白くも思えた。
- ここしばらく、ウェブ・サイト上でCDを購入する機会が増えている。Eコマースを全面的に信頼しているわけではないが、それでも便利なものではある。安いということもあるが、ウェブ・サイト限定販売のようなものが増えてきたので、使わざるを得ない状況になってきた。そもそもインターネットを活用したサービスは、不便な地域に住んでいてこそ、利用価値があるものである。自分のように東京の下町に暮らし、定期的に専門店や大型店をのぞきに行ける人間にとってどれだけの魅力があるかと問われると返答に窮するが、自宅のリビングにいながらにしてあれやこれやと探して買い物ができることは、それなりに面白いものである。
- 大手のウェブ・サイトでは実に情報が充実しており、また各国盤がそろっていたりもして、コレクターさえも重宝する。どこぞの国では輸入盤を規制しようという法制度上の動きがあるようだが、全く時代に逆行しているとしか思えない。CCCD(コピー・コントロールCD)もそうだが、それでCDの売り上げが伸びると本気で考えているのだろうか?全く迷惑な話でしかない。e−Japan戦略などと言って世界トップのネットワーク環境構築を目指している国の政策として、矛盾していないだろうか?環境だけ整備して使えなくする、ということにならないだろうか。まったく珍奇この上ない。
- 先述のCDは当然ながら購入したが、これに関しては腹の立つこともある。一枚の値段は非常に安いのだが、郵送料がかかってしまうので、ある程度の枚数をまとめて購入しないと安価という価値が薄れてしまうのである。結局かなり高いものになってしまったが、どうしても入手しておきたかったので仕方がない。海賊盤に毛がはえた程度のジャケットのみでインナー・スリーヴもないことが一層腹立たしくもあるが、何といってもメンツがあのギター・ショップ・トリオなのである。そうジェフ・ベックのギターに加えてキーボードがトニー・ハイマス、ドラムスがテリー・ボジオのトリオである。このメンツの音源であれば、どんなものでも買いなのである。
- 何といってもテリー・ボジオのドラムスが素晴らしいのだ。千手観音ドラマーなどと言われるほど手数が多い人間なのだが、そのわりにアタックも非常に強く、相当に個性的なドラミングなのである。ジャズによく見られる手数の多いドラマーは当然アタックが弱くなってしまうのであるが、アタックが強いまま手数が多いというのは、よほど手首が強靭でスナップが強いのだろうか。アタックが強いということは一音一音がしっかり分離しているということで、拍子の裏でもしっかり音が鳴っており、トリオにありがちな音の隙を埋めることができるのである。しかもベースレスという、変則的なトリオであり、ドラムスがかなりの部分をカヴァーする必要があるのだ。ベースという楽器は実に便利なもので、ベースの音が鳴っていれば、それなりに聴こえるとでも言おうか、ある程度さまになってしまうのである。その反面、ベースがないと非常にさびしくなるので、ベースレス・トリオで演奏するには相当に勇気がいるのである。
- とにかくこのドラマー、マルチなのである。元はザッパ・バンドの一員だったが、最初に意識したのは、フュージョン畑のブレッカー・ブラザーズが大暴れした「ヘヴィーメタル・ビバップ」での演奏である。一曲目の「イースト・リバー」の恐ろしく切れのいいドラミングは、曲のよさもあるが、一度聴いたら脳みそにこびりついてしまうものである。もう既にランディとマイケルのブレッカー兄弟はファースト・コール(プロデューサーなどから真っ先にお声がかかるという意味で、その時代の一番人気ということ)になっていたが、それもポップ・ミュージックやロックの世界でのはなしで、フュージョンという音楽の評価自体がまだ定まらず、呼び方もクロスオーヴァーだった時代である。確かにこの曲はジャズとロックがクロスオーヴァーしていたのかもしれないが、ソフトロック寄りのインストものとしての性格が強かったフュージョンの可能性を大いに拡大した重要盤なのである。
- その次にテリー・ボジオを意識したのは、彼の妻のデイル・ボジオがヴォーカルを勤めるミッシング・パーソンズでの演奏である。何と妻のためとは言え、テクノのような音楽をやっていたグループで叩いていたのだ。当然ながらここではあまり目立った演奏は聴けない。そして次がジェフ・ベック・ウィズ・テリー・ボジオ・アンド・トニー・ハイマスのアルバム「ギター・ショップ」である。ジェフ・ベックの前作がヴォーカル・アルバムで、しかもあまりロックしていなかったこともあり、期待されたこのアルバムだったが、ベースレスという構成もさることながら、コンピュータを多用した音作りに関しては賛否両論あった。自分は一部非常に好きな曲があったので、好きなアルバムではあるのだが、確かにジェフ・ベックがやらなくてもという曲もあり、違和感を拭えなかったことは事実である。恐ろしく個性的なドラマーとしてテリー・ボジオに興味はもったものの、とにかくライブで見るまでその評価は定まらなかった。そしてようやくそのドラマーを目にする機会が1989年の夏にやってきたのである。
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