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下町音楽夜話

◆第127曲(1)◆ この猟犬スライドに憑き
2004.11.27
ハウンド・ドッグ・テイラーというギタリストをご存知だろうか。ブルースの世界でもロック寄りの音を出す人間なので、ロック系のミュージシャンからは随分リスペクトされるのだが、ブルースの世界ではどういった扱いを受けたのか、そもそもあまり採り上げられないので判らないのだが、かなり色物的に扱われていたような気がする。とにかく残された音源の少なさからも、リアルタイムではさほど評価されなかったように思えてならない。日本の場合は特にロバート・ジョンソンから脈々と受け継がれてきた素朴なデルタ・ブルースと、都会的なシカゴ・ブルースの歴史的に大きく評価されたものしか入ってこなかったので、少々亜流と捉えられがちなものになると入手するのにえらく苦労したものだ。この状況はいまだに改善されていないように思う。

いろいろな音楽のジャンルが世界中にはある。日本という国は貪欲なまでにその全てを消費するようなところがある国なので、日本で手に入らないワールドミュージックはないと言ってもよいくらい、輸入もされている。東京には専門店まであるので、海外の人間の方がその価値を理解しているとも言われる。一般的な日本人は実に淡白で浅く広く音楽を聴き、拘る性格の人間は徹底的に深く掘り下げていったりするので、こういうことになるのだろうか。ジャンルによってはこんなものまで国内盤が発売されるのかと驚かされるほど、マーケティングを無視したようなカルトなものまでリリースされている。ただしこれは、レコード会社の担当者の個人的な趣味も反映しているのかも知れない。

ともあれ、ブルースというジャンルに関しては、その辺の状況にかなり特徴がある。マディ・ウォーターズやハウリン・ウルフなどのビッグネームの音源に関しては、徹底的にリリースされる。海外盤にボーナス・トラックを加えてまでしても、国内盤はリリースされる。しかし、ちと高価ではある。その反面マイナーなミュージシャンになると、なかなか音源の整理すら進まないのか、発売してくれない。リロイ・カーやタンパ・レッドなど、もっと評価されてもよいだろうミュージシャンのもので、ろくに市場に出回っていないものは多いように思う。市場原理からして当然、と言われても無理はないが、ほかの分野のものと比較すると、少し寂しく思えてしまうのも事実だ。ビッグネームがブランド的に好まれている、とでも言うべき状況なのである。

そんな中でハウンド・ドッグ・テイラーは、ブームでも到来したかのように浮上してきた状況である。最近はブルース関連の専門誌もあり、そこの特集で採り上げられるほどにもなっているのだが、やはりというべきか、この夏に発売された未発表ライブ音源を集めたCD「この猟犬スライドに憑き」を買いに走ったところ、手に入らず随分苦労した。ようやく入手したものの、その内容の素晴らしさに、何だか呆れ返ってしまった。どうしてこんなにいいものが未発表なのか、こんなに入手するのに苦労しなければいけないのか。何かやるせない気分になってしまったのだ。これではミュージシャンは浮かばれまい。

ハウンド・ドッグ・テイラーのスライド・ギターは、ギラギラとした硬質の音で、聴く者を圧倒する。とり憑かれたようにスライド・バーをアップ・ダウンさせて、ビブラートとは言わないような音を出し、煽り立てる演奏をする。ヴォーカルもなかなかのものだと思う。この男を生で観たかったものだ。どうせ柄の悪そうな客だらけのジューク・ジョイントなどで、飛ばしまくっていたのだろう。万が一観られたとしても、落ち着いて観ることは難しかったかも知れない。こんなギターは自宅のリビングで、アホ面下げて、口をあけて聴いている方がいいのかも知れない。

さて「この猟犬スライドに憑き」だが、輸入盤ばかり買っていて、滅多に国内盤を買わない自分が久々に国内盤を買ってしまった。勿論入手するのに苦労したからあれば何でも買っただろうが、もともと日本盤を買うつもりでいた。何故ならボーナス・トラックまで収録されているからなのである。ともあれこれで2300円は安すぎる。全音源を集めているようなミュージシャンのものは、海外盤と国内盤を見比べて、曲数などが違わないかチェックしてから買ってはいるのだが、そうでもないものは、オリジナル志向とても言おうか、母国盤が好ましいに決まっている。

この盤はブルースの名門、アリゲーター・レコードのものである。アリゲーターは、常に新人発掘にも精力的で、実にいい仕事をしているレコード会社なのである。しかもこの会社の歴史的第一弾リリースはハウンド・ドッグ・テイラーのデビュー盤なのである。しかし今回は国内盤に軍配が上がった。何せボーナス・トラックが自分の大好きな「ロール・ユア・マネーメイカー」なのである。「シェイク・ユア・マネーメイカー」というタイトルの場合も多いこの曲は、ダウンタウン・ブギウギ・バンド(懐かしい!)の「スモーキン・ブギ」と同じメロディとでも言えばご理解いただけるだろうか、ノリのいいブギ・スタイルのロックロール・タイプのものである。

ブルースの世界では、このCDの国内盤をリリースしてくれた、日本のP−VINEという会社も好ましい。スリーブの解説も含めて、ジャケット製作などの細かい部分でも愛情が感じられ、またこのアルバムに限らず、実にツボにはまるリリースをしてくれるのである。いつもこの会社の盤を買ったときには、いい買い物をした気分になる。粗悪なスリーブのものを買ってしまったときなど腹立たしいことも多いが、国内盤は作りが丁寧なものが多く、腹を立てないで済む傾向にあることは事実である。そしてさらに、この盤、帯のコメントをウルフルズのトータス松本氏が書いている。褒められたものではないが、何とも勢いのある文章で、この音源の発売を喜んでいる様が伝わってくる、何とも微笑ましいものなのである。