下町探偵団ロゴ万談ロゴ下町探偵団ハンコ
東京下町Sエリアに関連のある掲示板、コラム・エッセイなどのページ
 トップぶらりグルメくらしイベント交通万談 リンク 

下町音楽夜話

◆第283曲(1)◆ アメリカン・ロックの底力(3) − オヤジの底力
2007.11.24
個人的に、今年はライヴに足繁く通えない事情があるということは何度か書いたが、やはりどうしても観ておきたいライヴというものはある。エルトン・ジョンの還暦コンサートは予想通りの内容で、悲喜交々終了し、次に控えているのが待ちに待ったデレク・トラックス・バンドのライヴである。再追加公演まで売り出される状況だが、そもそも選んだハコが小さ過ぎる。再追加も当然だと思うが、日本での人気というのはどの程度なのだろうか。ローリング・ストーン誌が選んだ現代の3大ギタリストは、ジョン・メイヤー、デレク・トラックス、ジョン・フルシアンテなのだそうだ。そういうことを考えても、日本における評価は、まだまだと言わざるを得ない。そもそも、エリック・クラプトンが昨年のジャパン・ツアーに連れてきたあたりで、もっと、もっと、評価されるべきだったのではなかろうか。

あの直立不動の演奏スタイルが彼本来の弾き方だということは、時間が経ってから知ったので、かなり緊張してステージに立っていたのかと思い込んでいたが、若手といっても、そこらの新人とはわけが違う。1997年には神童と言われながら18歳でデビュー・アルバムをリリースしており、それなりに場数も踏んだツワモノなのである。エリック・クラプトンのライヴで、尋常でないほど艶のある、素晴らしい音のスライド・ギターを目の当たりにして、気になって仕方がなくなってしまったのだ。その後、手に入る関連音源は片っ端から買い集めている状態だが、今回の来日に合わせて、廃盤状態になっていた初期のソロ・アルバムも再リリースされたし、相当の枚数が手元に揃ってしまった。この若さにしては、やはり凄い量である。

何はともあれ、本家、オールマン・ブラザーズ・バンドでの活動が気になる。とりわけ2003年という年の活動は目を見張るものがある。オールマン久々のスタジオ録音盤「ヒッティン・ザ・ノート」の出来のよさもさることながら、前後して行われたツアーの音源が何枚もリリースされている。HMVで入手できるのでブートレグではないと思うが、8月9日と10日の連日のライヴ音源が、それぞれ3枚組CDでリリースされている。1970年代を代表する名ライヴ盤「アット・フィルモア・イースト」でも窺い知れるように、白熱のギター・バトルを中心とした長尺の演奏が今でも売りのようで、というか、観客もそれを楽しみにしているようで、もの凄い盛り上がり方だ。しかも、8月10日は、アンコールで「いとしのレイラ」まで演奏しており、しっかりとファン・サービスは怠っていないようだ。

この「いとしのレイラ」に関しては、やはりエリック・クラプトンの演奏に軍配が上がるようだが、猛烈に熱い40分近くに及ぶ「マウンテン・ジャム」の直後では、単なるファン・サービスとしか映らず、少々勿体ない演出のように感じてしまう。また、バカ丁寧にオリジナルのフレーズをコピーしているような演奏は、音の分離がよすぎて、アナログで聴きたい代表のようなこの曲の魅力が、かなりの部分殺がれてしまっており、少々残念である。ヴォーカルはかなり上手いし、ギター・ソロなどは決して悪いわけではないので、どうしても「勿体ない」という感想になってしまう。

友人の一人で、若い割には昔のオールマン・ブラザーズ・バンドの「アット・フィルモア・イースト」あたりに拘りを持っているY君は、デレク・トラックスのスライドを評して、音がキレイ過ぎると言う。スライドギターというものは、試しに自分で弾いてみると、握力が足りないせいか、満足にいい音が出ない。テクニックも何もあったものではない。そもそもがボトルネックをコントロールすること自体が非常に繊細な作業で、実にぶれ易いのに、キレイな音が出ることはそれだけでもの凄いテクニックだと思うのだが、そういう評価にはならないのだろうか。昔からの悪いクセのようなものだが、自分の場合、スライドの上手いギタリストは、即ち上手い人なのである。あくまでも奏法の一つではあるが、自分が上手くできないことが上手くできる人がよく思えるのは致し方ないではないか。とりわけキッチリ音を出すスライドギターが好きで、スティーヴィー・レイ・ヴォーンやジョー・ウォルシュのパワフルなスライド・プレーは大好きだった。

デレク・トラックスに関しては、ここのところ、オールマン・ブラザーズ・バンドでの演奏ばかり聴いていたのだが、来日直前のこの段になって、旧盤の3枚、すなわち1枚目、2枚目とジョージア・シアターでのライヴ盤の3枚が廉価で再リリースされたことは本当に嬉しかった。入手困難になっていたもので、どうあがいても、手に入りそうになかったのだ。当然ながら予約しておいて、発売日に入手して、毎日聴きまくっている。そこで思うに、この人、本当に選曲のセンスがよいのである。1枚目はジャジーな演奏が若いわりには渋いなあと思わせるが、2枚目からはブルージーな要素が加わってきて、もう年齢では評価できない特別なものを感じさせるようになる。

とりわけ気に入ったのが、ジョージア・シアターでの2003年のライヴで、最後の曲に、カーティス・メイフィールドの「フレディズ・デッド」をカヴァーしているのだが、これがまた渋い演奏なのだ。そもそもこの曲は、不発映画の代表「スーパーフライ」で使われたもので、サントラ盤だけは一部で非常に高く評価されている。誰もが目をつける曲ではない。増してや、ヒットしたのは1972年であり、彼が生まれるずっと前の曲である。アルバム中でもとりわけシンプルな演奏が黒人特有のグルーヴを感じさせ、自分などはこの曲がヒットしたときには、本当に参ってしまった。これを、また渋い演奏でカヴァーする、デレク・トラックスの勇気を褒めるべきだろう。早弾きなどでテクをひけらかすわけでなし、センスだけが問われるようなスローな曲を渋くキメることの難しさと言ったら、半端なものではないだろう。

カーティス・メイフィールドの曲のいくつかは、多くのロック・ミュージシャンにカヴァーされている。「ピープル・ゲット・レディ」あたりが代表的なものだろうか。彼の曲は単純なフレーズの繰り返しの場合が多く、さほどのテクがなくても弾ける曲が多い。しかし、その実、これを格好良く聴かせるのは決して容易なことではない。断言する、「フレディズ・デッド」は、ある意味でとんでもない難曲である。それでも、こうして、新世代の若者にカヴァーされ、スタンダード・ナンバー化していくのであろうか。それはそれで、非常に嬉しいことだ。こういったセンスをもった若者が、次から次へと現れてくるのだから、アメリカという国は恐ろしいフトコロの深さを持っているということなのだろうか。