シカゴとヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュースのコンサートに行ってきた。時折小雨の降る土曜日、午前中は出勤して仕事を片付けてきて、夕方から出かけたのだが、開演が17時とあってまだ昼間のような雰囲気の東京国際フォーラムに駆けつけた。同時に2つのバンドが観られるコンサートは、つい先月にTOTOとボズ・スキャッグスのものがあったが、ボズのバックバンドからスタートしたようなTOTOとボズのジョイントはまあ理解はできるが、シカゴとヒューイ・ルイスとなると、意外性は圧倒的に勝っている。TOTOは、これで当面の間、ライヴ活動を停止するということなので、見逃したことが悔やまれるが、年度末の最も忙しい時期のライヴは高嶺の花、無理だ。
また、同様に先月日本で実現したものでは、SOFTとマルーン5の例もある。知名度があまりに違うので、2つのバンドが観られるといっても、やはりSOFTは前座という捉え方しかできない。どちらも実力はあるバンドなので、少しSOFTに対するPRが不足していたように思わなくもないが、まあ最高のプロモーションだろう。これはこれで、非常に楽しめたライヴだった。SOFTの今後には期待しないわけにはいかないが、非常に親しみやすいメロディを持った楽曲は、あまりライヴに向くとも思えなかったので、売り方が難しい連中かなと思えた。将来像を見据えたプロモーションを打てば、それなりに売れるとも思うのだが、やはりライヴ向きでないと、ロックは売りにくいのだろうか?曲がよいだけに、今後の大ブレークを期待したいものだ。
1987年に、まだ屋根がなかった後楽園球場でヒューイ・ルイスたちを観たときは、ブルース・ホーンズビー・アンド・ザ・レインジと連れ立って来日していた。そのときも、この陽気なオッサンたちは、ワイワイやりながらツアーをしてまわるのが好きなのかなという印象を持ったものだ。何しろ楽しそうなステージなのだ。観ている側も元気になってしまう彼らのステージは、本当に観客にパワーを分けてくれるようで、今回も観終わったときには、随分気分が上向いていることに気づいた。ともあれ、シカゴにしろ、ヒューイ・ルイスにしろ、実に明るく健康的な印象を受ける連中だ。すべての英国ロックには独特の屈折した暗さがあり、この点に関しては、はっきりと別物であることがわかる。アメリカン・ロックにもエアロスミスのように英国的な音を出す連中もいるので一概には言えないのだが、正直言って、ヒューイ・ルイスやシカゴは、最も英国的ではない気もする。
2大アメリカン・バンドの夢の競演と言われても、はじめはピンと来なかった。しかし、こと1980年代の状況でみると、この2つのグループは実に多くのヒットを飛ばしている。ベスト・ヒットUSAなどでヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュースのクリップは、数え切れないほど観たし、シカゴのロマンチックなバラード・ヒットはテレビ・ドラマなどでも随分と使われていたように思う。正直いって飽きるほど聴いて本当に飽きてしまった時期もあったように思う。それでもライヴは絶対に観ておきたいと思ったものだ。ヒューイ・ルイスアンド・ザ・ニュースを初めて観た1985年12月の日本武道館公演も同じ印象だった。そのときは、アリーナ席の後ろのほうで、ようは立たないと見えない場所である。最初から総立ちで踊りまくりのライヴだったが、何はともあれ、百戦錬磨の手堅い演奏と、実にパワフルで上手い煽り方が印象的だった。やたらと感謝の言葉を並べるMCは、宗教的なものも感じなくはなかったが、「いい人」的な好感度は抜群だった。バンドのメンバーがお互いをリスペクトしている雰囲気が伝わってくるステージは、取り立ててテクニックを見せ付けるでもないが、如何せん歌は上手い。アカペラでカヴァー・ソングを聴かせるコーナーはソウル・レヴューのようでもあり、全体の演出が実に練られており、ロックンロール・レヴューとでも呼びたくなるものだった。
今回も、当然ながら大ヒット・アルバム「スポーツ」の曲が中心という選曲だった。しかし、観客が最も盛り上がりを見せたのは予想どおりというか、やはり大ヒットした映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」からの、1980年代を代表するヒット・ナンバー「パワー・オブ・ラヴ」だ。これはさすがに懐かしかった。ここでは思わず涙が出そうになってしまった。30歳の若さで難病パーキンソン病を発症し、一線を退いてしまったマイケル・J・フォックスの顔がちらついたこともある。会場の入口で配っていた情報誌に、マイケル・J・フォックスを世界的な人気者にしたTVドラマ、ファミリー・タイズのDVDの広告が載っていたから、尚更だ。ようやく世界的な成功をつかんだところで、こういう憂き目に遭ってしまった彼も気の毒だが、自分と1歳違いの彼が活躍した映画でのキャラクターは、非常に親近感を覚えたものだった。
我々の世代の人間は、自分の青春時代と重ねて、悲喜交々、彼の活躍を楽しんだのではなかろうか。「パワー・オブ・ラヴ」が人生のテーマソングになっているというオジサンたちは多いというはなしを、雑誌かなにかで読んだこともある。当日も、そういったオジサンたちが、大勢会場にいたように思う。何せ、2つのバンドが合計で4時間近くも演奏したコンサートなのに、立ちっ放しなのだ。当日、彼らからパワーを分けてもらったオジサンたちが、また元気に月曜日から頑張って仕事に励んでいる姿が想像できて、笑い泣きのような気分になってしまった。自分も同様に、随分、元気を分けてもらったような気がする。ここは素直に気分が上向いたことを感謝したい。
第一部のヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュースのアンコールでは、現在のシカゴのギタリスト、キース・ハウランンドが、「バック・イン・タウン」でジャムを繰り広げ、その次には「バッド・イズ・バッド」で、ビル・チャンプリンをギターとヴォーカルでフィーチャーし、またシカゴの名ドラマー、トリス・インボーデンがヒューイ・ルイスと2人でハーモニカ・バトルを展開して、楽しませてくれた。トリス・インボーデンは、非常にテクニックのあるドラマーで大好きな人なのだが、ハーモニカがこれほど上手いとは知らなかった。マッタク、器用な連中だ。このジャムで、第二部のシカゴへの期待を盛り上げつつヒューイ・ルイスたちのライヴは終わってしまった。おい、まてよ、「ドゥ・ユー・ビリーヴ・イン・ラヴ」をまだやってないじゃないか!イチバン好きな曲をやらないかー。おい、おい、カンベンしてくれよー、といった状態で休憩に入ったが、妙に明るい表情のオジサンたちの幸福感に満ち溢れた会場の雰囲気は、決して悪いものではなかった。・・・しかし、みんな元気だなー。