■第75回 『カタ屋』 |
03年11月15日 |
- 久しぶりにこのコラムの過去ログを読み直してみました。筆不精の私がよくこれだけ書いたものだと、我ながら感心していました。
- ホントに筆不精なんです。だからよくこのコラムの発行日が遅れるでしょ。ちなみに正規の発行日はメルマガ版は第2、第4木曜日。ホームページは10日、25日です。
- 読み返していて思った事があります。1年程前に下町の子供のおもちゃやお菓子の話を書きました。駄菓子屋や紙芝居屋の話です。そこにもうひとつだけ加えたいエピソードがあったのですが書き損じてました。今日はその話をします。
- 第40回『昔ながらの駄菓子屋さん』、第41回『駄菓子屋の思い出』、第42回『紙芝居屋さん』を一読してから読んでいただくとわかりやすいかもしれませんね。
- 下町の子供達の遊び場にものを売りに来た人って、紙芝居屋さんの他にもいましたよね。
- それも今考えるとなんかうさん臭そうな人ばっかりじゃありませんでしたか?しかもこっちもものを知らないものだから面白いようにだまされてましたねえ。
- ある日、小学校の下校時に校門の前に一人の男が座っていました。
- 「これは世にも珍しい魔法のカードだよ」
- 男は何枚かのスペードのカードを私達に見せてくれました。そのカードを伏せて、再びひっくり返すとなんとハートに変わっています。
- 「おおお、すごい。おじさんそれちょうだい、ちょうだい」
- 「いや、ただという訳にはいかん。よし、今日だけ特別に100円で売ってやろう」
- 「えっ、ほんと。家に帰ってお金持って来るから絶対にここにいてよ」
- 大急ぎでお金を取りに帰って買ったカードは、右半分がハート、左半分がスペードに色分けされたカードでした。
- まあ、今じゃ誰もひっかからないような三流マジックでしたね。そんなおじさんけっこういませんでした?
- そんなおじさんの極めつけはやっぱり「カタ屋」でしょうね。「カタ屋」の話は今でもよく話題にのぼります。
- 知らない人のためにちょっと説明も交えて書きますね。
- ある日、突然、私達の遊び場の公園に一人のおじさんがやって来ます。
- まず、動物やアニメキャラクターの形に型抜きした粘土を私達は渡されます。色のついた粉をおじさんから買って、筆で粘土の表面に塗っていきます。その出来に合わせておじさんが点数カードをくれます。
- ただそれだけの事なんですが、子供達の間ではすごく盛り上がるんですね。
- 点数には優劣があるのですが、高得点を狙うためには2つの方法があります。
- まず色をきれいに塗ること。
- 銀粉や金粉など高得点が期待できる粉というのもあるんですが高いんです。
- 私達は何色かの粉を混ぜ合わせたり、色分けして配色に工夫を凝らしたりします。また、ある時は大奮発して銀粉を買っちゃったりします。
- もうひとつは大きなかっこいい抜き型で型をつくること。
- 抜き型は最初はおじさんが貸してくれるんですが、それは小さくてあまり点数が稼げないもの。高得点を狙うには大きな型が必要になります。
- 抜き型はお金でも買えるんですが、当然高いです。しかし点数が貯まれば点数カードとも引き換えてくれます。
- 私達はそんなお金なんか持ってないので、大きい型を手に入れるためにレンタル型で少しづつ点数を貯めます。
- もう少しであの大きな型が手に入る。
- 点数がだいぶ貯まって、みんながそう思い始めた頃、ある日おじさんはまた突然来なくなります。
- 何日待っても来ません。
- そして子供達はおじさんの存在を忘れてしまいます。
- 子供たちは学区域があるから遠くへは行かれません。おじさんは隣の学区域の違う公園へ行くようになります。
- おじさんはそういった事を繰り返し、半年もたった頃、また私達の公園へ戻って来ます。
- でも私達はおじさんのことなんかとうに忘れちゃってるから、点数カードもどこかへなくしちゃってる訳ですよ。ちゃんとしまっとけばよかったなあなんて、おじさんではなく自分達の方に非を感じ、また最初から点数を集める訳ですよ。
- ね、子供も単純だけど、そこまで見抜いてるおじさんもひどいでしょ。
- 昔はこんなおじさんってけっこういましたよ。
- ただね。今にして思えば、悔しいというより楽しかった思い出話なんですよ。多分そう思ってるの私だけじゃないはずです。同年代の人と会うとよく酒の肴になんかなったりしますしね。
- 近頃、私は子供と公園でベーゴマやって遊んでます。でも、最近の子供は公園にあまり来ませんね。児童館などへ行くそうです。確かにおもちゃもマンガもたくさんあって、雨も降らないから遊ぶには困りません。
- 役所がらみですから、ちゃんとした職員さんもいて風紀もよいです。
- 最近はいろいろと治安も悪いですから、変な人から子供達を守ってあげることって大事でしょうね。
- でも、ちょっと不真面目だけど楽しかった私達のような思い出は、大人になった時、彼らにはないんでしょうね。
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